Run to Infinity

by Yota Nakamura /// 「自転車で世界を旅する元添乗員ライター」中村洋太の挑戦と情報発信のブログ

【雑誌連載】『どこまでも道は続いている 中村洋太のヨーロッパ2000kmダイアリー』第2章

      2017/10/23

(第1章はこちら

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アムステルダムに惹かれる

大雨のデュッセルドルフから電車で3時間半、ぼくはオランダの首都アムステルダムへやってきた。数多くの画家が愛したという、運河が美しい街だ。

この日はよく晴れ渡っていたが、駅を出た瞬間から何やら異様な臭いの煙につつまれた。

「そうか、オランダは大麻が合法なんだっけ?」

大麻やタバコと人々の生活感が混ざり合った、なんとも言えない臭い。そしてドイツとは異なった、人々の高いテンション。あちこちで騒ぎ合っている。駅前には怪しい顔色のおじさんや、厳ついサングラスをした大柄の警官がいて危険な香りもするが、日本ではおよそ味わえない雰囲気に、どこか惹かれたのも確かだった。

オランダが自転車大国だというのは、どうやら本当のようだ。とにかく自転車が多いし、自転車専用道の整備も細かいところまで行き届いている。間違えて自転車専用道を歩いていたら大声で怒鳴られた。「自転車=車」という意識は、日本よりも格段に高い。

“自転車大国”は本当だった

アムステルダムから南へ、自転車を漕ぎ出したときのこと。自転車用の道は安全ではあるものの車道とは完全に独立しており、かなり回りくどい道になっているため時間的なロスが大きい。わざわざ遠回りしなくてはならない場面もあり、ぼくは少しうんざりしてきた。「このままじゃなかなか街に着かない。ちょっとなら大丈夫だろう」と、ついに耐え切れなくなり車道を走り始めた。

すると、ぼくの横を通り過ぎて行くほとんどの車に怒鳴られることになった。「ここは車専用の道で、お前の道は向こうだ!」と。ここまで文化が違うものなのか。結局引き返して元の自転車道に戻ったのだが、驚いたことにさらに、わざわざ車で追い掛けてきてぼくを引き留め、「さっきあの道を自転車で走っていただろう。ダメだよ、危ないから」と声をかけてくれる人さえいたのだ。国民全員がルールをしっかり認識しているからこその、自転車大国なのだろう。

走っている途中で、雨が降ってきた。最初は小雨だったが、だんだんと本格的に降り始めた。日本だったらこの雨で自転車に乗るような人はまずいない。ぼくも今回は諦めて、途中から電車を使おうかどうか悩んだ。

しかし周りの人々はなんでもない顔で、傘も差さずに自転車を漕いでいる。70歳くらいのおばあちゃんまでもが、びしょ濡れになりながら自転車に乗っているのだ。信じられないような光景だったが、これを見たぼくは「この程度の雨で電車なんて使ったら、日本人の恥だ」と、思いはじめた。「行ってしまえ!」と心の中で叫び、豪雨の中を再び走り始めた。

レインコートは濡れられる限界量を超え、サングラスは雨粒で埋め尽くされ視界がなくなった。もはや自転車を漕いでいるというより、泳いでいる感覚に近い。「せっかくの夏休みに、何でこんな辛い目に遭っているんだ」と、何度も泣きそうになりながら、ようやくロッテルダムに到着した。

ずぶ濡れの状態でホテルに入り受付を済ませると、ロビーにいた男が「君はサイクリストか?」と聞いてきた。ベルギー人のマリオという男だった。彼は2年前までセミプロのロードレーサーだったそうだ。そして自転車で旅をしているぼくを気に入ってくれ、たくさんのベルギー情報を教えてくれた。

「ベルギーで何か困ったことがあればいつでも連絡してくれ。俺たちは友達だ!」

歳は近いが、とてもしっかりした男だった。あのタイミングでぼくがロビーにいなければ、マリオと会うこともなかっただろう。「この出会いのために雨が降ったのかもしれない」と考えると、妙に納得できた。

親切なおじさんに感謝

ロッテルダムを後にすると、ベルギーのブリュッセルを経由しイギリスへと向かう。イギリスへは自転車ごとユーロスターで移動した。イギリスに寄ったのはマンチェスターで本場のサッカーを観るためだったが、交通量の多いロンドン市街地を自転車で走ることも、それ以上の貴重な体験となった。とにかく道が混雑していて危険ではあったが、イギリスは西ヨーロッパで唯一左車線の国。日本からやってきたぼくにはかなり走りやすかった。

その後マンチェスターから、飛行機でポルトガルへ向かうことにした。自転車を飛行機に載せるためには車体を梱包する必要があるのだが、今回ばかりは空港で段ボールを調達するしかない。航空券を予約してあるとはいえ、もしこの場で梱包できなかったら……ポルトガルを諦めて陸路でスペインに行くことになる。

空港に着き、チェックインカウンターで「箱はありませんか?」と尋ねるも、「俺は知らないよ」と一蹴される。他のカウンターへもいろいろと行ったが英語がよく聞き取れず、どうしていいのかわからない。「やはり飛行機は諦めるしかないのか……」。ところが諦め半分で作業員のおじさんに相談してみたところ、裏口から大きなダンボール箱を持ってきてくれた。かなりボロボロだったが、なんとか梱包に成功した。親切なおじさんに感謝。これで諦めかけていたポルトガルに行くことができると思うと、嬉しくてたまらなかった。

未知の国ポルトガル、そこではどんな出会いや冒険が待っているのだろうか。ぼくは胸を弾ませながら飛行機へ乗った。

(第3章につづく) 『Green Mobility』Vol.14掲載

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