忘れられないエピソード

すき家にて

投稿日:2016年9月3日 更新日:

すき家に入ると、隣のテーブルに、サッカーの練習帰りと思われる3人組の中学生が座っていた。

ひとりがトイレに入ると、座っていた奴がイタズラでノックしに行ったりと、なかなかヤンチャで騒がしく、他のお客さんにも迷惑な存在だったが、ぼくは黙って見ていただけで、注意などはしなかった。

そんなとき、小さな事件が起きた。

お母さんと入店した6才くらいの男の子が、レジからひとりで牛丼を席に持ってくる途中、つまずいてセットのカルピスを全てこぼしてしまった。

お母さんはまだレジの方にいて、この事態に気付いていない。床一面のカルピスを前に、どうしていいかわからない男の子は、無言で立ち尽くしていた。

ぼくが店員を呼びに立ち上がろうとした瞬間、隣のテーブルから声が聞こえてきた。

「あーあ、やっちまったな〜」

「どうする?」

「助ける?」

「助けようか」

ぼくは立ち上がるのをやめた。中学生たちがテーブルにあった紙ナプキンをごそっと掴んで立ち上がったのを、また黙って見ていた。

「はい、これで拭きな」

と男の子にナプキンを手渡したところで、ぼくは立ち上がり、中学生たちに、

「店員さんに雑巾をもらってくるね」

と声をかけた。

「あ、ありがとうございます」

やがて店員さんがモップを持ってやってきて、お母さんも戻ってきた。

「あら〜何やってるのよ〜。どうもすみません、ありがとうございます」

と言われた中学生たちは少し照れ臭そうに席へと戻り、男の子は新しいカルピスをもらい、この小さな事態は収拾した。

中学生たちが「そろそろ出るか」と再び立ち上がったとき、ぼくは彼らに「ありがとうございました」と頭を下げた。それが、とても大切なことだと思った。

-忘れられないエピソード

執筆者:

関連記事

【サッカー】「シュートだけなら世界一になれないだろうか」軌道の美しさを追求した日々

「サッカーでプロになることはできないけれど、ひたすらシュート練習をすれば、シュートだけなら世界一になれるかもしれない」とバカげたことを思って、大学1,2年のとき、ノートをつけたりビデオに撮りながら、無 …

はじめての方に読んでいただきたい人気記事TOP5

当ブログをご覧いただきありがとうございます。ライターの中村洋太です。 これまでブログやその他メディアでたくさんの記事を書いてきました。今回は、SNSで話題になったり、Yahoo!で取り上げられたものな …

「お兄さん、俺プロになりたい」夢を抱いた少年に背中を見せた2年間

大学1、2年生の2年間、近所の小学校で毎週末サッカーを教えていました。といっても、コーチという立場ではありません。 ひとりで壁に向かってボールを蹴っていたある日、小学生の保護者のひとりから、「良かった …

「最近の中村さんから『悔しい!羨ましい!』とは感じない」

今日の夕方、珍しい方からメッセージが届きました。 「お久しぶりです。 覚えていますか? 2009年の夏、長崎のユースホステルで同室になったバイク乗りです。 また自転車旅に出るということで、思い立ってこ …

「あなたの大義は何ですか?」

2年前のある日、訪日観光客向けWebマガジン「MATCHA」を創業した青木優くんと浅草の缶詰バーで話していました。 昨年は星野リゾートからの資金調達が決まるなど、彼とメディアの知名度はどんどん上がって …