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長命寺と道明寺。桜餅の歴史と、ジョブズも愛した和菓子の話

投稿日:2018年2月14日 更新日:

世界を旅して、各地の郷土菓子を見渡してみても、四季折々のお菓子がこんなに存在するのは、日本のくらいのものだと気付かされます。以前、ユーラシア大陸を自転車で横断した郷土菓子研究社・林周作さんの記事を書きましたが、彼も同じことを話し、和菓子の魅力を語ってくれました。

今回は日本人なら知っておくべき桜餅の歴史と、都内の桜餅の名店をご紹介させていただきます。

桜餅には2種類ある

そもそも桜餅には、「長命寺桜餅」と「道明寺桜餅」の2種類があるということをご存知でしたか?

桜餅が生まれたのは、江戸時代のこと。享保2年(1717年)、8代将軍徳川吉宗が隅田川沿いに桜を植えさせたことで、花見客で賑わうようになりました。

しかし、大変だったのは桜の葉の処理。向島・長命寺の門番をしていた山本新六は、「この桜の落葉を何かに生かせないか」と考え、塩漬けにし、餡を包んだ皮に巻いて試しに露店で販売してみたところ、これが大いに繁盛し、後に長命寺の中で桜餅を売るようになったそうです。

今でも向島の和菓子店「長命寺桜もち」では、当時から変わらぬ味を受け継いでいます。

長命寺桜餅が江戸風・関東風と言われるのに対し、道明寺桜餅は上方風・関西風と言われています。こちらは小麦粉ではなく、「道明寺粉」という材料で皮を作っています。

道明寺粉は、大阪府藤井寺市の道明寺で最初に作られた、水に浸し蒸したもち米を干して粗めにひいた食品。もともとは保存食として使われたそうです。

道明寺桜餅は、団子状に丸くして餡を包んだもので、ツブツブの食感が残っています。それが長命寺桜餅との違いですが、塩漬けの桜の葉で包まれているという点は共通しています。

コリドー街の名店 銀座甘楽(銀座)

「銀座甘楽(かんら)」は、帝国ホテル側から銀座コリドー通りに入ってすぐのところにあります。この銀座本店を含め、東京都近郊に計12店舗を構えていますが、創業からまだ10数年しか経っていません。確かな味が、店の急成長を支えているのです。

「うちの小豆は、北海道の留寿都にある契約農場で栽培しています」

とお店の方が話してくれました。そのこだわりの小豆を使って、店舗奥の工房で餡を炊いています。

看板商品は豆大福や、もちっとした食感がおいしい銀六餅ですが、やはり今回のお目当ては桜餅。見た目がかわいらしく、2種類を一度に楽しめる「紅白道明寺」をチョイス。ピンクの餅にはこし餡が、白い餅には白餡が入っていました。小ぶりで食べやすく、餡はどちらもおいしいです。

黒糖を使用した「夜桜餅」が絶品 芝神明 榮太樓(大門)

増上寺近くにある「芝神明 榮太樓」は、明治18年(1885年)創業、130年以上の歴史を誇る老舗です。日本橋にある「榮太樓總本鋪」からのれん分けされた店で、現在のご主人・内田吉彦さんは4代目。店先の題字は、先代の戦友だった芸術家・岡本太郎に書いてもらったものだといいます。

ここには「長命寺」と「道明寺」のほかに、「夜桜餅」(製法は道明寺と同じ)という商品が並んでいました。

「これはね、黒糖を使っているんですよ。皮にも、餡にも」

絶品でした。黒糖の風味は強すぎず、遅れてふんわりとやってきます。黒糖を使った桜餅は珍しいので、春の手土産にもってこいだと思います。

ちなみに店の看板商品は、文豪・尾崎紅葉が名付け親の「江の嶋最中」で、1902年に誕生したもの。アワビ、カキ、ホタテ、アカガイなどの貝殻をかたどったひと口最中で、中の餡も粒餡、白餡、ゴマ餡、こし餡、柚子餡とすべて異なっています。これも大好きな和菓子です。

スティーブ・ジョブズが愛した味 赤坂青野(赤坂)

明治32年(1899年)創業の「赤坂青野」では、店長の武田さんからおもしろい話を聞くことができました。

2009〜2010年頃、あのスティーブ・ジョブズがこの店の和菓子をとりわけ気に入り、カリフォルニアに取り寄せていたといいます。

「来店した依頼人の方は、『カリフォルニアに和菓子を届けてほしい』と言うのですが、『届け先を教えることはできない』と言うのです」

店側は2週間おきに、12000円の詰め合わせの商品を半年間送り続けていたそうで、後に依頼人から、その相手がスティーブ・ジョブズだということを告げられたのだとか。そんな裏話に興奮し、しばらく桜餅が用意されていることを忘れてしまっていました。

ここにも長命寺と道明寺があります。長命寺には二色あり、ピンクの生地にはこし餡が、白い生地には粒餡が入っていました。滑らかで上品な甘さの餡。ジョブズに想いを馳せながら食べる桜餅。イチ押しです。

話が止まらなくなってしまうので今回は3店舗の紹介に留めましたが、ぜひ皆さんの街の和菓子屋さんで、桜餅を味わってみてください。

デパ地下に行けばたくさんの商品が並んでいると思いますが、たまには街にある素朴な和菓子屋さんに足を運びましょう。店員さんに「これもおすすめですよ」と言われ、ついつい別の商品にも手を出してしまう、そんな温かい時間も和菓子の良さだなと感じています。

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