ずいぶん旅らしくなってきた。
ツール・ド・ヨーロッパ
第19ステージ
ポルト→ヴァレンサ(ポルトガル)~ヴィーゴ(スペイン)→サンティアゴ・デ・コンポステーラ
55km
ポルトから電車で、ヴァレンサというスペイン国境付近の街へ向かった。ポルトのチケット売り場で、自転車旅をしている二人組(おじいちゃんと青年)に「写真を撮らせてくれ」と言われた。多分ぼくの自転車が珍しかったんだと思う。
同じ電車だったので、その二人と仲良くなった。
青年(ラファエル)は英語を話せたので、電車や道について色々と教えてもらった。ぼくは日本語を教えた。
「日本語でグッドモーニングは何て言うの?おはよぅ?おはよう。おはよう。」とか、「beutifulは何と言うのか。おー、うとぅくすぃ、うつくすぃ」とか言って、とても面白い奴だった。ぼくより手前の駅で降りて行った。
電車で隣に座っていた女の子とも仲良くなった。アナという名前だった。
さて、ヴァレンサへ着いた。みんなと別れ、ここからは一人ぼっちだ。
スペインの港町ヴィーゴを目指す。しばらく北へ走ると川があり、その川にかかる橋が国境になっていた。
国境と言っても、パスポートを見せるとか、そういうのは何もない。ただ橋を渡ればそこはスペインなのだ。こんなのがあるだけ。
特に景色は変わり映えもしない。ただ、スペインに入った瞬間、自転車人口が急に多くなった。ぼくのようなロードバイクに乗っている人があちこちにいる。みんなジャージにサングラスと、プロ選手のような格好をしている。それに速い。
ポルトガルではロードバイクに乗っている人をほとんど見かけなかった。まず自転車人口がとても少ない。そもそも自転車の走りにくい道だった。だから、スペインに入って結構文化の違いを感じた。とはいえポルトガルは人も温かいしとてもいい国だ。また絶対来よう。
走っていて、すぐに空腹がやってきた。今日は日曜日。ヨーロッパでは日曜はほとんどのお店が閉まっているのだ。田舎の町で、運よく開いているカフェを見つけた。ショーケースにシュークリームやエッグタルトがあった。
お店のおばちゃんには英語が通じなかった。ぼくは身振り手振りで「これが欲しい」と言った。得体の知れない東洋人の一生懸命さが伝わったのか、お皿の上にお菓子を載せて「食べなさい。お金はいいわよ」的なことをスペイン語で言ってくれた。(多分)
「ありがとう」と言いたかったが、それに当たるスペイン語が出てこなかった。「オブリガード(ありがとう)」はポルトガル語だからダメだ。結局お礼を言えないままお菓子をいただいてしまった。このまま帰るわけにはいかないので、食べながらCASIOの電子辞書でスペイン語を調べた。
「エスタバ トド ムイ ブエノ 、グラシアス」 (とてもおいしかったです。ありがとう)
と言ったら、おばちゃんはにっこりと笑ってグラシアスと言った。よし、通じた。
なんとも傾斜のえげつない坂を登った。苦しみの末、標高300mまで登ると最高の見晴らしが待っていた。ヴィーゴの街が一望できた。このために登ってきたのだ。
電車の時間があるので最後は足をつりながら必死に走った。ビーゴ駅に13:50に着いた。電車の10分前に到着!「ふー!ギリギリ間に合ったー!」
と思ったら、ビーゴ駅の時計は
14:50を指していた。え??
実は、ポルトガルとスペインの間には、1時間の時差があったのだ。やられた。。すっかり忘れていた。
1時間駅で待つことになった。切符を購入する。しかし切符売場のおばちゃんもスペイン語しかわからない。なんとか目的地への切符は買えたが、あと一つやることがある。
「自転車は乗せられますか?」と聞くのだ。
「バイシクル、オッケー?」
「バイシ・・?」
「バイシクル」
おばちゃんはしかめっ面。通じないのか。
「バイシクル。バイスィクル?バイスィコゥ、んー、バイク?サイクル?ベロ(フランス語)?じてんしゃ・・・?(通じる筈がない)」
これだけ並べてもダメ。
かなり恥ずかしかったが、ぼくは自転車を漕ぐマネをした。そしたら、
「オー、ビヒクレーター?」
「それ!」(多分)
スペイン語で自転車はビヒクレーターと言うのか。勉強勉強。
17:30にサンティアゴ・デ・コンポステーラに到着した。歩いて10分くらいで大聖堂に着いた。すごい人だ。まさかここまでとは。。大聖堂に入るのに1時間並んだ。
世界遺産は数多くあるが、道自体が世界遺産になっているものは珍しい。2つしかないのだ。1つが、実は日本の「紀伊山地の霊場と参詣道(熊野古道)」、そしてもう1つが、この「サンティアゴ・デ・コンポステーラの巡礼路」なのである。サンティアゴ・デ・コンポステーラには、聖ヤコブ(スペイン語でサンティアゴ)の遺骸があるとされ、エルサレムと並んでキリスト教の三大巡礼地に数えられている。
世界中の人がフランス側からピレネーを越えて歩いてくる。その巡礼の路のゴール地点がここサンティアゴ・デ・コンポステーラの大聖堂なのだ。(恐らく疲れと痛みで)足を震わせながら歩いている人もいる。「ついに着いた・・・」という気持ちだろう。
とにかく大きな建物だ。東西南北どの方面から見てもすごい。しかしやはり正面が圧倒的だ。
もちろん多くの人はただの観光客で、何千キロの道のりを歩いてたどり着いたような人は全体から見ればほんの一握り。しかし、苦労をせずにここに来てしまったからバチが当たったのか、そこからぼくの苦難が始まった。
十分に大聖堂を見終わって、駅に向かった。夜行列車でマドリードに向かうつもりだった。切符を買って、余った時間でご飯を食べようと思っていた。
「マドリードまで行きたいのですが」
「明日まで売り切れだ」
「え?」
「満員なんだよ、明日までな。」
今日どころか、明日まで。。それじゃマドリードに行く時間がなくなってしまう。。どうしよう。頭が真っ白になった。
「何か方法はありませんか?」
「あとはバスだな」
バスがあるのか。しかし都合良く行くかどうか。いや、考えていてもしょうがない。駅から離れたバスターミナルに行ってみた。尋ね回って、チケット売り場を見つけた。ここにたどり着くだけでも一苦労だった。
「マドリードまで行きたいのですが」
「21:30の夜行バスがあるわよ」
あと40分後だ!
「ビヒクレーターは載せられる?」(さっき覚えた)
「梱包すれば可能よ」
慌てて「乗ります!」と答えた。しかし自転車は輪行袋に入れなくてはいけない。それに時間がかかり、結局ご飯を買う時間すらなくなってしまった。夕方から何も食べていなくて空腹だ。。それに、自転車の解体にチェーンを触りまくったから手は油で真っ黒け。洗う時間もなかった。しかし、なんとかマドリードへ行けることになった。ツイてる。バスの中でほっと一息。眠って空腹を忘れよう。
いよいよ6カ国目の首都、マドリードへ。
良くも悪くも、旅らしくなってきた。