旅が始まって、二週間が過ぎた。ぼくは楽しい旅ブログを書きたかったから、一日の出来事のうち、良かったことだけを抜き出してブログに書いていた。しかし今は、どうしても精神的なギャップを感じてしまう。楽しいこともあれば、辛いことも数多くある。それを書いても、ブログを読んでいる人はあまり楽しくないだろうと思ったから今まで隠していたけど、自分の気持ちに反してブログを書くのも辛い。ちょっと弱音にもなってしまうけど、あえて感じていることを素直に書いてみたいと思う。
ツール・ド・ヨーロッパ
第15ステージ
マンチェスター~ロンドン→リスボン(飛行機)
まず、ここ数日。どっと疲れが出てきた。最初は旅の高揚感からか、疲れも感じなかったし、朝も5時6時に平気で起きれた。だけど、どうやら小さな疲労や見えないストレスが溜まっていたようだ。腰痛がヒドくて、目覚めるのが辛い。ストレスというのは、言葉の問題だったり、環境の変化だったり、あとは食事の問題がかなり大きい気がする。ほとんど野菜を食べれていない。どこの国に行ってもフライドポテトが多くて、日本での食生活とはかけ離れたものになっている。イギリスはホテルの朝食でさえ緑の野菜がなく、あったのは豆かトマトくらいだった。
誰かと食事するときはちゃんとしたものを食べるが、それ以外はマックだったりサンドイッチだったり、節約のためあまり大したものを食べれていない。おとといの夕食はひどく、ビスケット3枚だけだった。
肉体的な疲労だけではなく、精神的な辛さもある。一応予定通りに旅は進んでいるものの、まだ日本で走ったような長い距離を走れていない。何か自分を抑えてしまっている感じがして、もどかしい。「去年西日本を一周したときの自分はどこへいったんだ」、と何度も自問自答する。「行けるかわからないけど行ってみよう」という姿勢で走った、あの時のガムシャラな自分は良かった。今の自分にだって、本当はもっとできるはずだ。協賛のプレッシャーに押し潰されそうだが、それでももっと自由に、ガムシャラにやってみたい。
今日はロンドン郊外のルートン空港からポルトガルへ向かう。しかし、自転車の梱包が問題だった。日本を出るときは、コーワ株式会社 さんの輪行箱を使わせていただき無事に運べたが、今回は適切なダンボール箱が見つからなかった。それでも飛行機を予約してしまっていたので、空港に行くしかない。だが、もし空港で自転車を梱包できなかったら、ぼくはポルトガルへ行くのを諦めてフランスからスペインへ向おうかと、そこまで覚悟していた。イージージェット(利用する航空会社)のサービスはヒドいと色々な人から聞いていたので、恐る恐る空港へ向かった。
空港に着き、チェックインカウンターに行った。「ちゃんと箱に入れないとダメだ」と言われる。「箱はありませんか?」「俺は知らないよ。」 色々なカウンターへ行ったが、英語がよく聞き取れず、どうしていいのかわからない。「やはり飛行機は諦めるしかないのか・・・」、と思いかけていたとき、インフォメーションのおじさんに相談したらどこかからダンボール箱を持ってきてくれた。かなりボロボロのダンボールだったが、なんとかガムテープを駆使して梱包に成功した。
おじさんに感謝。他の荷物も検査に通り。無事にチェックインすることができた。諦めかけていたポルトガルに、ぼくは行くことができた。奇跡だった。この旅一番の山場を乗り切り、本当に嬉しかった。
そして20時。ポルトガルの首都リスボンに到着した。そのままダンボールに入れただけでほとんど梱包しなかったが、自転車は奇跡的に無傷だった。組み立てと荷物の取付けが終わり、空港を出たのは21時過ぎ。さて、空港から街へ出るにはどうすればいいのか。空港では色々な人にジロジロと見られた。そもそも、空港から自転車に乗る人なんてなかなかいない。たとえば、自転車で成田空港に向かっている人がいるだろうか。あそこは恐らく車しか走れない道のハズだ。高速道路を走っているようなもので、かなり怖い。
ぼくは恐る恐る自転車を漕いで、車に跳ねられないように慎重に走った。ホテルまでは5km。場所はGPS で確認できるものの、自転車が道路のどこを走っていいのかわからない。自転車の交通ルールは国ごとに違うのだ。あたふたしていると、マウンテンバイクに乗った男の人が、「空港から来たのか?」と話しかけてきた。「そう、日本から来たんだ。」「ホテルの場所はわかるか?」「微妙だ」ぼくらは自転車を走りながら器用に話した。この人はいい人なんだろうか、それとも悪い人なんだろうか。
「ホテルまで案内するよ。着いてきて」
ただのいい人だった。なぜこんなに親切なんだ。そして本当にホテルまで案内してくれた。「メールアドレスはあるか?」と聞かれて連絡先を交換した。「リスボンで何か困ったことがあったら連絡して」と言ってくれた。
彼の名はミゲル。いい男だった。
未知の国ポルトガル。ポルトガル語もまったくわからず不安でいっぱいだが、どうやら、とてもいい国なのかもしれない。