最後は気迫が違うのだ。
ツール・ド・ヨーロッパ
第56ステージ
ヴォルフスブルク~シュテンダール
93km
ヴォルフスブルクでお世話になった白井さんご夫妻、本当にありがとうございました!白井さんはサッカー日本代表の長谷部選手とも鍋をつついたことがあるようで、話を聞いていると羨ましい限りでした。
さあ、朝9時に出発。極寒。寒さで足先が痺れて感覚がなかった。
今日走った場所は、ただ草原が広がっているだけ。大きな街もなかった。
平原を無心で走った。
お昼過ぎ、小さな街に入った。ちょうどいいからお昼にしようと思ったが、どこのレストランも開いていない。
スーパーしかなかったので、チョコとバナナだけ買って食べた。1.7ユーロのお昼だった。HARIBOの安売りをしていたが、重くなるのでベルリンまで我慢した。
一度休むと、一気に体が冷える。とても外に出られなかったので、レジの後ろでチョコを食べた。それくらい寒かった。
再出発しても、しばらくは体が温まらない。早く宿に着きたい・・・
ここは旧東ドイツと旧西ドイツの境界らしい。看板があった。
今日は本当に何も考えなかった。写真もほとんど撮らなかった。けど楽しかった。
純粋に自転車旅をしたなぁ。いつもは「今日のブログは何を書こうかな」と、ネタ探しをするんだけど、それもしなかった。
93km走り切って、シュテンダールに着いた。
必死に走った。雄叫び。ワールドカップでFK決めた後の本田圭祐(笑)
宿に入って、シャワー。はぁー・・・お湯が気持ちいい・・・生き返る。
シュテンダールはまったく観光地ではない、ただの小さな街だ。
一応、街を一周してきたが、やはり見所は特にない。けど、居心地は悪くない。
中心地に少しお店があるが、住民しかいないからとても静かだ。学校から高校生がわんさか出てきた。どうやら下校時間らしい。ドイツの日常を感じる。観光ではないが、これはこれでいいな。
話は変わるが、2006年のワールドカップを最後にフランスのジダンが引退した。34歳の彼は、全盛期のプレーを取り戻し大会MVPを獲得した。
その引退のかかった最後のプレーを、どこかのテレビ局が「ラストダンス」と表現したのを覚えている。ぼくはこの表現を気に入った。まさしく、彼は踊っていた。
囲まれてもボールを奪われない。敵のタックルをするりとかわす。ジダンのプレーは、まるで踊っているようだった。
また、彼は最後まで、自分の舞台を「踊り」続けた。つまり最後まで、ジダンらしくあり続けた。
人には、自分だけに用意された舞台がある。ジダンにはジダンの舞台があった。ぼくにもぼくだけの舞台がある。そういうことを、自転車旅を通じて学んだ気がする。
今までは、「自分になくて、他人にあるもの」に目を奪われていた。「あいつはあんなことができる。すごいなあ。ぼくには無理だ。」 そのせいで、他人を羨ましく思ったり、「自分はなんてダメな人間なんだ」と思ったりもした。
だけど、人は人だ。同じじゃなくてもいいと思えるようになった。ぼくはぼくらしくいればいい。どうせなら、「自分」を極めてやろう、と。 迷ったら、武者小路実篤のこの言葉が勇気を与えてくれる。
「この道より我を生かす道なし この道をゆく」
この自転車旅は、ぼくにしかできない。もっと速く走れる人はいっぱいいる。もっと文章のうまい人はいっぱいいる。だけど、ぼくにしか走れない速度。ぼくにしか書けない文章。ようやく見つけた、ぼくの舞台だった。この2ヶ月間、必死に踊り続けた。
ジダンのプレーには「これが最後だ」という気迫がこもっていた。ぼくはテレビ越しに鳥肌が立った。34歳のおじさんは輝いていた。
明日、ベルリンまで走ってこの旅を終える。ベルリンまで120km。夕方までに着かなければいけないので、結構必死だ。朝8時に出発しようと思う。
最後の力を振り絞る。それがぼくのラストダンス。ジダンのように踊りたい。