すき家に入ると、隣のテーブルに、サッカーの練習帰りと思われる3人組の中学生が座っていた。
ひとりがトイレに入ると、座っていた奴がイタズラでノックしに行ったりと、なかなかヤンチャで騒がしく、他のお客さんにも迷惑な存在だったが、ぼくは黙って見ていただけで、注意などはしなかった。
そんなとき、小さな事件が起きた。
お母さんと入店した6才くらいの男の子が、レジからひとりで牛丼を席に持ってくる途中、つまずいてセットのカルピスを全てこぼしてしまった。
お母さんはまだレジの方にいて、この事態に気付いていない。床一面のカルピスを前に、どうしていいかわからない男の子は、無言で立ち尽くしていた。
ぼくが店員を呼びに立ち上がろうとした瞬間、隣のテーブルから声が聞こえてきた。
「あーあ、やっちまったな〜」
「どうする?」
「助ける?」
「助けようか」
ぼくは立ち上がるのをやめた。中学生たちがテーブルにあった紙ナプキンをごそっと掴んで立ち上がったのを、また黙って見ていた。
「はい、これで拭きな」
と男の子にナプキンを手渡したところで、ぼくは立ち上がり、中学生たちに、
「店員さんに雑巾をもらってくるね」
と声をかけた。
「あ、ありがとうございます」
やがて店員さんがモップを持ってやってきて、お母さんも戻ってきた。
「あら〜何やってるのよ〜。どうもすみません、ありがとうございます」
と言われた中学生たちは少し照れ臭そうに席へと戻り、男の子は新しいカルピスをもらい、この小さな事態は収拾した。
中学生たちが「そろそろ出るか」と再び立ち上がったとき、ぼくは彼らに「ありがとうございました」と頭を下げた。それが、とても大切なことだと思った。