「おいしいですか? 良かった~。ここのメロンパンは、クロワッサン生地なのが特徴で、……」
メロンパンの話になると、止まらない。
平井萌さんは、今年3月に大学を卒業したばかり。一見、おとなしそうな印象だが、大学生活は針が振り切れていた。
目次
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コンゴの映像を目にして
大学1年生のときに偶然目にしたインターネット動画が、平井さんの運命を変えた。
「スマホにも使われている『レアメタル』という資源が原因で、コンゴで紛争が続いているという状況を知りました。コンゴはアフリカの遠い国ですが、スマホが身近なだけに、自分ごとのように思えました。この映像を観ていなかったら何もしていなかったけど、観て、知ってしまった以上、責任があります」
平井さんは「コンゴウィークジャパン」という団体を立ち上げ、コンゴの文化や抱えている社会問題についての認知度を上げるために、ワークショップなどを開いていった。
「ですが、そこに集まるのは、もともと国際問題などに興味を持っている人ばかりでした。そうではない層にコンゴのことを知ってもらうためには、どうしたらいいのか。歯がゆい日々が続きました」
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大好きなメロンパン
転機は、意外な角度から訪れた。
「私は、毎日の食事がメロンパンでもいい、と思うほどメロンパンが大好きなんですが、ある日アルバイト先の社員さんに『そんなにメロンパンが好きなら、買わずに自分で作ったら?』と言われたんです。
その瞬間、コンゴとメロンパンが頭の中でつながりました。自分が純粋に好きなものを媒介にすれば、楽しく活動が続けられるし、もともと国際問題に興味のなかった人たちを取り込むこともできるかもしれない」
迷いはなかった。2014年にクラウドファンディングで資金を集め、世界初の「メロンパンフェスティバル」を開催した。全国の名店からメロンパンを取り寄せ、東京に集結させた。あまりの人気ぶりに見事完売。その収益をコンゴで活動する日本人に寄付することで、好きなことを通して目的を果たすことができた。
「トークショーで『メロンパンが目的でここに来た方は?』と聞いてみたんですが、約9割が手を挙げていて。『あぁ、これが私の目指していた景色だ。もともと関心のなかった人にたちに、関心を持ってもらうきっかけを与えられたんだ!』と感動して、登壇しながら涙が出そうになりました」
来月の5月5日には、第3回目となるメロンパンフェスティバルを東京・千代田区で開催。規模は年々進化していて、今回は約40種類のメロンパンを楽しめる。
「メロンパンって地域によって、またパン屋さんによってもすごく色んな顔を持っているんです。今年はパン屋さんにコラボメロンパンを作っていただき、通常お店では購入できないメロンパンフェス限定のメロンパンも販売します。
また、コンゴの NGO団体と共同で支援プログラムの展開をしたり、現地パートナーと組んでコンゴの特産品であるバニラビーンズやカカオの生産を行っていきたいと考えています」
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メロンパンが、コンゴと日本をつなぐ
「それって、支援的なつながりだけではなく、本当にコンゴとメロンパンがつながるということ?」
「まさにそのとおりです! コンゴで生産したバニラビーンズを日本のパン屋さんに卸して、メロンパンを作っていただきたいなと思っています。農業なので道のりは長く、すぐに結果が出るわけではないですが、頑張っていきます。
日本での活動としては今後もメロンパンフェスティバルを続けていき、ゆくゆくは開催地も全国へ展開します。今年の秋には再び東京で、さらに京都での初開催も予定しています」
約2年前、「私はメロンパンでコンゴを救うことに決めました」と宣言する彼女に対して、最初は「何を言っているんだろう」と真剣に思ったが、もう誰も笑う人はいない。
「好きが高じて」という言葉があるが、メロンパンが好きというだけで、ここまでいけるものなのか。「好き」に対して純粋に向き合った結果生まれた、愛すべきロールモデルである。