旅を仕事にしていると、おすすめの旅行先や行ってみたい場所について、ときどき尋ねられます。「日本で行ってみたい場所は?」と聞かれて、この数年間答えていたのが、長崎県の五島列島でした。
今回「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」の一部として、五島列島の4ヶ所
・久賀島の集落
・奈留島の江上集落(江上天主堂とその周辺)
・頭ヶ島の集落
・野崎島の集落跡
が世界遺産に登録されました。
もちろん個人でも行けますが、島内の移動手段が限られるので、五島列島に関してはツアーが向いているかなと感じます。たとえばJALパックなどで五島列島のツアーがあります。
長崎港からフェリーに乗って、西へ約100km。九州最西端に浮かぶ五島列島は、大小150の島々からなります。自然が豊かで、小さな漁村や農村など、古き良き日本の風景を伝える場所が各所に点在しています。朝日や夕日の美しさも格別でした。上五島の「ホテル・マルゲリータ」からの眺め↓
しかし最も特徴的な点は、島に残る50以上の教会群です。フランシスコ・ザビエルによって16世紀にキリスト教が伝来し、布教の黄金期を迎えた後、待っていたのは200年以上に及ぶ大弾圧でした。この時代、五島の人々は表向きでは神道や仏教徒として生活をしながら、キリスト教の信仰を守り続けてきました。
そして明治6年に禁教令が解かれると、潜伏キリシタンたちはようやく得た信仰の自由の喜びを、「教会建築」という形で表現しました。五島は「祈りの島」であり、教会建築を抜きに島の歴史を語ることはできません。世界に類を見ないキリスト教の歴史を物語る史跡が、今日まで大切に保存・継承されてきました。
そして五島の教会を語るとき、必ず名前が出てくるのが、建築家の鉄川与助です。仏教徒でありながら、その生涯を教会建築に捧げました。大学などで建築の専門教育を受けたわけではなく、ペルー神父やド・ロ神父など来日した宣教師から教会建築の知識と技術を聞き知り、独学と創意工夫で30以上の教会の設計をしました。
鉄川与助設計の教会は、西洋と日本の建築技術が融合していく過程を示していて、日本近代建築史において高い評価を得ています。旧野首教会、青砂ヶ浦天主堂、頭ヶ島天主堂、江上天主堂などが彼の代表作です。
小値賀諸島の文化的景観
なかでも訪ねづらいのが、旧野首教会のある野崎島です。かつては650人前後の人々が暮らしていましたが、現在は宿泊施設の管理関係者以外、ほぼ無人の島。そのため、上五島から海上タクシーに乗って訪ねることになります。
この野崎島の小高い丘の上に、1908年に建てられた旧野首教会があります。それまで木造で教会を設計していた鉄川が、初めてレンガ造りに挑戦した教会です。小さく素朴な教会ですが、美しいステンドグラスが眠っています。
かつて集落に住んでいた17世帯の信者たちが、貧しい暮らしを続け、力を合わせて建設費用を捻出しました。大人たちは1日2食と生活を切り詰め、キビナゴ漁などで資金を蓄えましたといいます。総額はおよそ3000円。現在のお金に換算すると2億円ほどの価値があったそうです。
「たった17戸の集落で、これほどの資金を払うことができるのか?」と、工事に関わった人々の中には不安を感じる人もいたそうですが、信者たちは落成の日、1円の不足もなく現金で支払いをしたといわれています。
時代の流れとともに人口流出は続き、1971年には最後の住民たちが島を離れ、廃村となりました。しかし、人々の祈りが刻み込まれた旧野首教会は、現在も高台の上にひっそりと佇み、歴史的価値を後世に伝えています。
五島の魅力は、教会建築以外にもたくさんあります。ぼくが気に入ったのは、豊かな食文化。
四季折々の新鮮な魚が楽しめるのは最高でしたし、香川の讃岐うどん、秋田の稲庭うどんとともに「日本三大うどん」に数えられる五島うどんも名物です。モチモチとした食感と喉ごしが良く、いくらでも食べられます。
下の料理は、「ホテル・マルゲリータ」の一品。地魚のお刺身が最高においしかった。上五島では絶対泊まるべきホテルです。
お土産におすすめなのは、「かんころ餅」。スライスしたサツマイモを茹でで干した「かんころ」に、餅を混ぜ合わせた郷土菓子で、オーブントースターなどで焦げ目がつくまで焼いて食べるとさらに風味が増します。また、福江島で有機栽培したブドウを使った「五島ワイン」も人気のお土産でした。
海も美しいです。ぜひ、観光客で混雑する前に訪ねてみてください。