「Yota、日曜は8時に学校に来てくれ」
ぼくが通うサンディエゴの語学学校「Internexus San Diego」の校長ブライアンが、金曜日に言った。当然、日曜に授業はない。
「自転車のイベントに連れて行くよ。半年に一回のイベントなんだ」
実はブライアン、語学学校の校長であると同時に、ヴィンテージ自転車の転売人でもある。
彼は毎週末、フリーマーケットのようなところへ行って、「これだ」と思うヴィンテージ自転車を買ってくる。そして、必要なメンテナンスやパーツ交換をささっと行い、すぐに写真と値段をFacebookなどにアップし、翌週には別の誰かに売り払っている。それをずっと繰り返しているのだ。語学学校の一部屋は、自転車メンテナンス用の部屋と化していた。
最初、ぼくはこの話になかなかピンとこなかった。なぜなら、そもそも日本人にとって「ヴィンテージ自転車」というものにあまり馴染みのないものだからだ。日本人は、基本的に新しい自転車を買う。
しかし、海外では、とくにカリフォルニアでは、ヴィンテージ自転車の人気は凄まじいものがある。たとえば1980年代の日本の「Nishiki」の自転車なんか、ファンにはたまらないらしい。
ぼくはそんな自転車、聞いたこともなかった。どうやらこのメーカー、現在は自転車を作っていないが、当時は高品質なロードバイクを生産して欧米で人気だったそうだ。
様々なメーカーのヴィンテージ自転車が存在し、彼は毎週末、色々なマーケットでお宝を発掘してくる。
そして、年に2回しか開かれない、「VELOSWAP」という自転車イベントに連れてってくれるというので、今日行ってきた。
朝8時過ぎ、バルボア公園内の会場へ行くと、既に行列ができていた。入場開始は9時からである。しかし、ぼくはブライアンに連れられて、特別に出店者用の入場口から待たずに入ることができた。
「9時に入ってたら、良い自転車は売り切れちゃうよ。一般の人たちが入る前に勝負を決めるのさ」
会場には、多くの出店者がいた。自転車だけでなく、パーツやウェアなども売られている。
ブライアンは目を光らせながら自転車を見て回った。目利きの顔だ。語学学校の校長であることをすっかり忘れていた。
そのうち、彼が一台の自転車を気に入ったらしい。
TREKというアメリカの自転車メーカーのヴィンテージバイクだった。
彼は値段を聞き、あっさりと150ドルで自転車を買った。
「いいだろう、Yota。250ドルくらいで売れるよ、これは」
さっぱりわからない。なぜこれが100ドルも高く売れるとわかるのだろう?
しかしぼくは驚いた。その自転車を持って歩く彼が、ことごとく自転車ファンたちに声をかけられているのだ。
「良いバイクだな」
「いくらで買ったんだ?」
「それは今日買ったバイクか? 150ドル? やられたぜ、グッドジョブ」
なんだ、この世界は!!
ぼくは、通学用に、自転車専用ソックスを買った。4足で10ドル(約1050円)は確かに安い。
そして9時になり、一般人がワーっと入場してくるタイミングで、ぼくらは会場を出た。ブライアンの勝ちだ。
彼はその30分後には、Facebookに購入した自転車の写真と値段をアップしている。225ドルにしたらしい。それでも売れれば75ドルのプラス収益だ。これを毎週繰り返しているのは大きい。
ぼくらはその後、2時間ほど一緒にサイクリングをした。
彼は言う。
「サンディエゴにはヴィンテージ自転車の愛好家が多い。だからすぐに売れるんだよ。普段行くマーケットでは、30〜50ドルくらいで良い自転車が売っていることもあるよ。価値を知らない人は、ちょっと乗れなくなっただけで売ってしまうんだ。でも修理すれば高く売れる。ヴィンテージ自転車を買い取って、サイクリングを楽しんで、それを一週間後には売ってしまう。これが毎週の楽しみなんだ」
なんだか、ビジネスのヒントになりそうな体験だった。日本でもヴィンテージ自転車の需要はあるのだろうか。とても興味深い体験になった。