2017 サンディエゴ語学留学&アメリカ西海岸縦断自転車旅「ツール・ド・西海岸」 アメリカ 行ってみた

「日本人だと伝えても、とくにメリットがないんです」サンフランシスコの今と、日本人としての危機感

投稿日:2017年6月25日 更新日:

土曜日の朝。サンフランシスコで人気の「Garden House Cafe」というお店へ行った。

韓国系アメリカ人がやっているカフェらしく、おばちゃんが優しく接してくれた。お客さんの3割くらいは韓国系だが、残りはアメリカ人。中国人しか入っていない中華料理店とは異なり、地元の人にも認められている証拠だ。

実際にサンドウィッチもコーヒーもお世辞抜きでおいしかった。食事も内装も、韓国っぽさを一切抜き、アメリカらしいお店で勝負しているところにも好感が持てた。日本人がアメリカで、和のもの以外で勝負するだろうか? あまり見たことがない。そう考えると、この韓国系のおばちゃんがたくましく思えた。

店内には落ち着いたクラシック音楽が流れている。サンドウィッチを食べているときに切り替わった曲が、バッハのマタイ受難曲の最後の合唱シーンの部分で、なぜかそのとき、若かりし頃の小澤征爾さんの姿が映画のように浮かんできた。

小澤征爾さんは24歳のとき、貨物船でフランスへ渡り、日の丸のついたスクーターで旅をして、1950年代のフランス人を驚かせた。その後、パリのアメリカ大使館に頼み込んで参加させてもらったブザンソン国際指揮者コンクールで、フランス語もよくしゃべれない、日本から来たばかりの若者が、いきなり一位を取ってしまう。世界的指揮者のキャリアはそこから始まった。

小澤さんの痛快な冒険のエピソードが好きで、ぼくは自転車で知らない土地を走りながら、ときどき彼の姿に重ねたくなるのだ。

サンフランシスコに来てから、アメリカで感じたこと、見聞したことが、ひとつの方向性や意味合いを帯びて、収束し始めてきた気がしている。どこへ向かうのかわからないが、どこかへは向かっているようだ。

昨日、吉本久さんと2年ぶりくらいに再会した。吉本さんは駐在員として、ここでベンチャー企業と事業開発をされている。昨年の3分の2は、ヨーロッパの工科大学と芸術大学へ行き、プロジェクト開発をされていたという。歳はぼくより2つ上だが、ジャンルを問わない幅広い知識と俯瞰的な視野、それに行動力が組み合わさり、常に時代を先読みしている感がある。

ぼくの中では、「最先端のテクノロジーやアーティスト、研究者を追い求めて、世界中を飛び回っている」人という印象。とにかく、おもしろいものを見つけてくる能力が半端ではない。卓越した目利きだ。そんなに自由なことを、大企業に所属しながらやっているのだからまたすごい。これだけ直接話していても、依然として謎に包まれている部分は多い。

その吉本さんに、4時間も街をご案内していただけた。最初は、彼が仕事をしているコワーキングスペース「WeWork」を見せてくださった。

ぼくが様々な雑誌や記事で目にして以来、ずっと興味を持っていた場所だ。その詳細はこちらの記事「【企業価値は約2兆円】話題のコワーキングスペース「WeWork」へ行ってみた!」に書いた。

市内には「WeWork」だけではなく、他にも様々なコワーキングスペースがある。

MITメディアラボの所長を務める伊藤穰一さんが設立した「デジタルガレージ」も、サンフランシスコにコワーキングスペースを持っている。ここはコーヒーが本当においしかった。

少し余談だが、「デジタルガレージ」にお邪魔した際、偶然にも三浦茜さんにお会いすることができた。

今回、ぼくがチェリオ・コーポレーションから旅の支援をしていただけることになったのは、チェリオ取締役の菅大介さんとつながっていたことが大きい。

菅さんと知り合ったのは、2014年頃だったか。彼が運営する「The Tofu Project」という団体(日本とアメリカの起業家やイノベーターを繋ぐことを目的として設立されたNPO)のイベントに参加したことがきっかけだった。

そしてサンフランシスコ在住の三浦茜さんもまた、「Tofu」の運営者なのだ。だからお会いしたのは初めてだったが、茜さんの存在は知っていた。彼女の会社がデジタルガレージ内にあったことは知らず、お会いできたのは本当に偶然だった。ご挨拶をして、ライフガードジャージにサインしていただいた。

話を戻そう。コワーキングスペースの話だった。

金融街(フィナンシャル・ディストリクト)にある「Workshop Cafe」も人気のコワーキングスペースのひとつで、ここはシステムがユニークだ。

お店に入ったら好きな席を確保し、自分の座った席の番号をスマホからチェックインするシステム。1時間3ドルと気軽に利用することができる。

コワーキングスペースの多くは、月額料金システムを採っている。しかしこのシステムには、一見の客が気軽に入りにくく、さらに、頻繁に利用する客同士のコミュニティができあがり、あとからは参加しにくいというデメリットがある。そこで「Workshop Cafe」は間口を広げるべく、月額料金システムではなく、利用するごとに料金を支払ってもらう設定にしているのだという。

また、「Workshop Cafe」も独自アプリを持っていて、アプリによって利用者同士の交流も生まれているそうだ。アプリにはコミュニティ機能があり、店内にどんな人がいてどこの席に座っているかがリアルタイムでわかるようになっている。ここで知り合った利用者が意気投合し、会社を設立するまでに至った例もあるという。

それから、吉本さんに「スタートアップの聖地らしい場所」にも連れていっていただいた。

アメリカには「ターゲット」という、日本でいうイトーヨーカ堂のようなお店があるのだが、サンフランシスコのミッションストリート沿いのお店には、少し変わったコーナーがある。

ここは新しいテクノロジーやプロダクトの展示スペースになっている。ベンチャー企業が作り出したスマート家電であったり、最新のテクノロジーを駆使した製品が並んでいて、その使い方や利便性を紹介する見せ方もうまい。

ベンチャー側にとっては、「ターゲット」という多くの人が訪れるお店に展示されることで自分たちのPRになるだろうし、実際に手にとってもらうことでフィードバックも得られるだろう。ターゲットとしては、ここは利益を生み出す場所ではない。しかし、こういうユニークな試みは多くの人に喜ばれるだろうし、数字では測れない価値があるように思える。スタートアップが盛んだということを再認識させられる場所だった。

そういえば、吉本さん曰く、以前はサンフランシスコもシリコンバレーの一部分とされていたが、最近では「シリコンバレー+サンフランシスコ」と明らかに分けられるようになってきたらしい。サンフランシスコのベンチャーの波が、以前に増して大きくなってきているから、とのこと。シリコンバレーから拠点を移してくる人も増えていて、吉本さん自身もパロ・アルトから最近サンフランシスコに移ってきた。目に見えない流れを嗅ぎ取る鋭敏な感性も、吉本さんらしいなと思った。

 

おにぎり専門店「Onigilly」

ひと口いただいたが、おいしかった。のりは中国産というが、全然悪くない。

最後に、横浜の「赤レンガ倉庫」のような、多くの個性的なお店が立ち並ぶ「フェリービルディング」を見学した。

野菜ジュースが約1000円。地元のオーガニック野菜にこだわった、コールドプレスジュースだという。

 

きのこ専門店。様々なきのこが売られていた。

吉本さんと歩いていると、とてもおもしろい。「これの産地はどこ?」とか、「和牛は扱っている?」とか、彼がお店で様々な質問をするので、尊敬する「目利き」が情報をどのように収集しているのか、非常に勉強になる。こうして日々、価値ある1次情報をインプットして、それらを組み合わせて、仕事に生かしているのだなと。

一緒には回れなかったのだが、「時間があれば、絶対ここへ行ってみて!」と別れ際に教えてくださったのが、「レインボー・グロッサリー」という人気ナンバーワンのオーガニックスーパー。サンフランシスコはオーガニックの聖地でもある。

さっき、一人でお店に行ってみた。

お店の特徴は、90%以上の商品がオーガニックであること。可能な限り地元の有機農家や酪農家、地元企業から商品を仕入れることをモットーとしていて、環境に優しく低価格な商品を提供している。そして食品だけでなく、一部のボディ用品、洗剤なども量り売りを行っている。

貴重なお時間をくださり、様々な場所へご案内してくださった吉本さんに本当に感謝している。

 

吉本さんと別れたあと、友人の高橋麻衣さんと再会した。2年ぶりくらいだろうか。

彼女は大学時代からの知り合い。某有名広告代理店を退職し、2014年にワーキングホリデーでカナダへ。その後、シリコンバレーで開催されたプログラミングのブートキャンプに参加し、Webサイトやスマートフォン向けアプリのデザイナーに。現在はバンクーバーからサンフランシスコへと拠点を移し、こちらで起業した。

久しぶりに会ったのでお互いの近況報告をしたが、強く印象に残っているのは、「この街で日本人だと伝えても、とくにメリットがないんです。日本人であることを押し出すよりも、『個人』として周りにどんな価値を与えられるかをより意識するようになりました」という発言。

これは、「このままじゃ日本やばいよね」という文脈の会話の中から出てきた言葉だ。吉本さんとも話していたが、ぼくはアメリカに来て、世界における日本のプレゼンスがどんどん低くなっているな、ということを実感している。吉本さんや高橋さんのように海外で身体を張って生きている人たちは舐められないが、一般的な日本人の見られ方はそんなに喜ばしい状況ではない。

一方で、中国人やインド人が台頭している。ヒュンダイやサムソンを擁する韓国も強い。で、日本人は?

「日本人は良いヤツ」で終わってしまっている。最近、「日本はすごい」「日本人はすごい」をアピールするテレビ番組が人気を博している。礼儀正しさとか、マナーとか、そういう意味では確かに日本人は素晴らしいかもしれないが、ビジネス面ではどうだろうか。高度経済成長期の頃の過去の栄光に溺れていないだろうか。かつて日本企業はすごかった。でも今は?

働き方の違いを見ていても、日本人が空気を読みあったり、事なかれ主義で無難にやっている間に、アメリカをはじめ、諸国はどんどん先へ進んでいる。優れたサービスが生まれても、規制や制度が邪魔をして実用化が遅かったり。

また、ベトナムやインドネシアの若者は、低賃金でも熱心に働く。今や都内のチェーン店では多くの店員が外国人。日本語も達者だ。語学を学び、海外の飲食店で働くチャレンジをできる日本人はどれだけいるだろうか。

「あの○○がついに日本上陸!」というニュースは多い。だけどそれでいいのか。本当は日本生まれの企業やサービスが、もっと海外に進出していかないといけない。こうしたことを、海外に来ると本当に実感する。そしてこちらに住んでいる日本人の多くが、同様の危機感を抱いていると感じる。

だからぼくは、「日本に帰ってからどうしようか」という宿題ができた。自分の利益とか、食っていくためにどうしようかとか、個人レベルの次元の低いことではなく、日本を活性化させるために、自分に何ができるかということを考えていきたい。

少なくとも今は、自ら挑戦し、またこの土地で見聞した価値ある情報をシェアしていくことで、日本人に良い影響を与えていきたい。

サンフランシスコでの休息を終え、明日から「ツール・ド・西海岸」が再開する。

ポートランドまで残り1300kmを走りながら、これからのキャリアについて考えていこう。

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