ぼくは、流れに乗っていたのだ。
ツール・ド・ヨーロッパ
第37ステージ
モデナ~ボローニャ
44km
朝はモデナを観光した。
かわいい自転車だ。 モデナはオレンジと黄色の町並み。
世界遺産の広場にやってきた。
しかし、肝心のドゥオモ(大聖堂)は工事中だった。残念。
観光を終えると、することがなくなった。13時。おじさんからの連絡も来ない。どうすればいいんだ。。。なんだかモヤモヤする。
葛藤に苦しんだ。「ぼくは何をしに来たんだ」、と。確かに怪我の心配もあるが、ヨーロッパを旅できるのもあと20日しかない。この先、自転車でヨーロッパを走れる機会なんて滅多にやってこないんだから、今のうちに目一杯走っておかないともったいない。過ぎた時間は取り戻せないんだから。
おじさんの連絡なんて待ってられない。本当に縁があれば、またどこかで会うだろう。ゆっくり走れば傷も大丈夫だ。次のボローニャまでは40km。このくらいなら走れるだろう。
ノープランだったが飛び出した。行ってしまえ!
時速20kmをキープして、安全運転で走った。何の変哲もない道だったが、やはり自転車で走れば何かしら起きるものである。途中、数分に渡っておもちゃのマシンガンで撃たれるような衝撃を受けた。
ダダダダダっ!!!
と、シャワーのように小粒の痛みが降ってくる。なんだこれは。何か服にくっついている。
小さな羽虫だ。羽虫の大群、何万匹もの大群の中に、ぼくは突っ込んでいた。アリくらいの大きさだが、自転車で走りながら当たると結構痛い。顔に向かっていっぱい飛んでくるが、運転中なので目をつぶることができない。これが辛いところだ。目を細めながら、必死にハンドルを握る。
2kmほど走り、ようやく虫の大群地帯を抜けた。すると今度は、雨が降ってきた。雨の中走るのは何日ぶりだろうか。結構強い。怪我のトラウマで、水たまりが全てガソリンに見える。転倒はしたくない・・・。かなり速度を落として、曲がるときもなるべく車体を傾けないように気をつけた。
そして17時、無事にボローニャに到着した。雨が上がって、虹が見えた。
さて、これからどうしようか。ボローニャから電車で行ったところにあるリミニという街に知り合いのイタリア人がいるので、そこに行こうかなと考えた。しかしそのとき、ぼくのiPhoneが鳴った。
ステファノ(モデナのおじさん)だ!奇跡!!
「今モデナに戻ったよ」
というメールだった。なんてこったい、入れ違いじゃないか。だけど、無事に飛行機で帰ってこれたんだな。
「もうボローニャに来てしまったよ」と返した。すると、
「大丈夫だ。20時にボローニャへ車で行くよ。日本人の友達を連れてね。」
おぉ!わざわざ会いに来てくれるのか。それじゃ会うしかないな。リミニへ行くのは明日以降にして、今日はボローニャに泊まることにしよう。
観光案内所を探して、そこで安い宿を予約してもらった。そして20時、マッジョーレ広場でステファノに会えた。ステファノの友人のパオロさん、日本人のなおみさん、娘のステファーニャが一緒だ。
レストランでご馳走になった^^
左:野草を練り込んだ緑のパスタと魚介のソース
右:ポルチーニ茸のパスタ。これは絶品だった。
みんなで記念撮影。右がステファノ。
バレンシアのレストランで、パエリアを頼もうとしたらウエイトレスに「パエリアは2人分からしか作れないわよ」と言われ、仕方なくパスタを頼んだ。しかし、すぐ横に座っているおじさんが、一人でパエリアをガツガツ食べて完食しているではないか。ぼくは驚いて、「一人で食べたんですか?」と聞いてしまった。「あぁ、食べれないことはないさ」 陽気にそう答えた、そのおじさんこそがステファノだった。
スペインで初めて会った人と、2週間後に今度はイタリアで会えるなんて、奇跡だ。
もし今日自転車に乗っていなかったら、ステファノとも会えなかっただろう。良い決断をした。
再び流れに乗り出した。