インタビュー

「ひとつの和菓子に、ひとつの包装を」田代成美さんが惹かれた世界

投稿日:2016年3月15日 更新日:

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和菓子のどこにこんなにも惹かれ、自分の手で作り出したいと思うのか。

ぱっとみて何を表しているのかわかるもの、菓銘をきいてわかるもの、食べてみてもわからないもの、だいぶ時間が経ってからふと思い出すもの…。

様々な表現が和菓子にはあるように思う。そして、きっとそういったところに惹かれているのだろう。

(『和菓子づつみ』まえがきより)

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友人に連れられて足を踏み入れたのは、未知の空間だった。不思議な作品の数々に、なんだかドキドキする。「和菓子づつみ? いったいこれは、何なのだろう?」 学生スタッフと思しき女性に声をかけた。まさかその方が、この展覧会を主催した張本人だとは知らずに。

「ひとつの和菓子に、ひとつの包装を」 それは、これまで考えもしなかった発想だった。まだまだ無名の彼女が抱く、純粋な想いと決意にふれ、ぼくは「人間の美しさ」を感じずにはいられなかった。「道を拓くひと」という言葉が、ぴったりだと思った。

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「すぐ近くでおもしろそうな展覧会があるんですけど、よかったらこのあと行きませんか?」

原稿の打ち合わせ中、コラムニストのYukari氏が言った。

「『和菓子づつみ』という、和菓子と包装をテーマにした展覧会です」

「和菓子と包装?」

よくわからなかったが、好奇心につられて行くことにした。

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表参道の奥にある、小さなギャラリースペースの扉を開けると、宝石箱のような空間が広がっていた。展示されているのは、和菓子ではなく、和菓子を包むためのパッケージデザイン。

それぞれのデザインには、説明書きがあり、よくわかるものも、よくわからないものもある。いずれにせよ、それぞれの和菓子に合わせて、包装がデザインされているようだった。

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これまで和菓子ばかりに注目してきたぼくにとって、「包装」に着目するとは、思いもよらぬ出来事だった。しかも、ひとりのデザイナーによる作品ではなく、おもには埼玉県にある女子栄養大学の学生が数名で作ったものらしい。手作り感は満載だが、感性は十分過ぎるほど揺さぶられた。

だけどこれは、どういうことだろう? どうしてこういう展示が行われることになったのだろう?

この展覧会の背景について無性に知りたくなり、しばらく眺めたあと、近くにいた女性に声をかけた。その方が偶然にも、主催者の田代成美さんだった。まだほんの数日前に、女子栄養大学を卒業したばかりだ。

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「女子栄養大学の食文化栄養学科では、3年次に『パッケージ論』という授業があります。 その授業では、オリジナルの和菓子を考え、そのパッケージを作るという最終課題があるのですが、授業期間が終ったあと、それぞれの作品を写真に撮って、自分で本にしてみたんですね」

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「どうして本にしようと思ったんですか?」

「みんなが作った作品がおもしろくて、純粋に、見られる形として手元にほしいと思ったからです。その本をSNSに載せたところ、思わぬ反響があって、印刷関係の学校に通う中学時代の同級生から、『楽しそうなことやっているね。何か一緒にできないかな?』と言われました。

そこから話をするうちに、どんどん作りたいもの、見たいものが膨らんでいきました。

そして、その友人と食文化栄養学科の有志を集い、『6201』(ロクニイゼロイチ)というユニットを組みました。昨年第1回目の展覧会を行い、今回が第2回目です」

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第一弾の展覧会を終えた後は、生まれ変わったような気分だった。「こんなに楽しく刺激的でおもしろい世界があるのか、わたしもこの世界で生きたい」と思った。

「『6201』というのは、どういう意味なんですか?」

「この展覧会メンバーが最初に集まったゼミ室の番号です。ユニット名を考えているときに、始まりの場所でいいのではないかとなり、この名前になりました。

授業やゼミのテーマで和菓子にふれてみると、和菓子には、作る人に見えている感性や景色が落とし込まれており、目で直接見ることのできないものが形になっているようでした。

ですが、和菓子単独ではなく、それを包み込むパッケージも一緒に制作することで、より作り手の感性が『見える』ようになるのではないかと思いました」

「6201」のメンバーは和菓子職人でも、和菓子の修業をしたわけでもない。だから、あるのかもしれない和菓子のルールはあまり知らない。あまり知らないなりに、和菓子に自分なりに向き合う。
わたしはというと、一歩入ると、和菓子の表現の虜になった。そして、和菓子を自由に表現し、思いっきり楽しんでいる。メンバーと話し、お互いの作品をみると、心底楽しいと思う。和菓子の表現は違えど、和菓子を一緒に楽しんでいる仲間がいることも幸せだ。

「6201は、『ひとつの和菓子に、ひとつの包装があってもいいよね。そういう表現をしよう』という考えで活動しています」

ひとつの和菓子に、ひとつの包装を。そのシンプルな発想に、美しさを感じた。

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「ところで、パンフレットの中に、『和菓子業界において、新たな流れが生まれているようです』と書いてありますが、『新たな流れ」とは、どういうことですか?」

「たとえば、『HIGASHIYA』は、ただ新しい和菓子をつくるだけでなく、しっかりとしたパッケージのデザインを提供することで、和菓子全体の新しいイメージを作り上げることに成功したと思います。

それは、単に和菓子が新しかったり、おいしかったりするだけでなく、その『新しさ』を目に見える形として表現しようとしている人たちが現れた、ということだと思います。ちなみに、『HIGASHIYA』の創業者である緒方慎一郎さんは、もともとは和菓子の関係者ではなく、プロダクトデザイナーだった方です。

一方で『とらや』のような老舗も、海外に出店したり、『TORAYA CAFE』を出したりと、色々と挑戦しています。あるいは、『wagashi asobi』のような、独立して、地元に根ざし、味も極め、新しいお店を作る人たちもいます。

和菓子というと、男性の職人さんが多いイメージですが、『糸』や『青洋』や、解散してしまいましたが『日菓』のような女性が中心となっているものも出てきました。ほかにも色々あると思いますが、これらの色々な動きを含めて、和菓子業界の新たな流れだと思います」

「なるほど。それで田代さんは、今後何をするんですか? 4月からどこかに就職するんですか?」

「いえ、就職はしません。『パッケージ論』の先生だった平野覚堂さんと、新たに『302』というユニットを組んで、この活動を続けていくことにしました。

4月からは、『302』のサイトを作り、作品をみなさんに披露し、見ていただけるようにアップしていきます。とりあえず、ひたすら作品作りです。基本的に和菓子を中心に作っていきます。

正直、自分たちもまだ、『こんな和菓子を作っています』と言えるような、「こんな」に当てはまる言葉を模索中です。それはきっと、作品を生み出していくなかで見えてくるのではないかと思っています」

「でも、いきなり独立とは、すごい勇気ですね」

「まだ和菓子の世界のことは、わからないことだらけですが、それでもこの世界にとても惹かれました」

「とはいえ、収入源はどうするんですか?」

「収入は、とりあえずはバイトです。そのうち、自分たちが作った和菓子を食べてもらいたいという気持ちはあります。作品の依頼をしてくださる方がいたら、自分たちにできることでしたら受けたいです。

ただ、収入を考えたり、これを作ったらメリットがあるとか考えたりしていると、作品がまっすぐでなくなってしまうので、現状、あまり考えられていないです」

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お話は、20分ほどしか伺っていない。それでも、人柄が滲み出ていた。まだ話すことに慣れていないが、心の中にたくさんの想いがあることは十分に伝わってきた。どう表現すればいいのか、まだわかっていないものが、彼女の中にはある。そう感じた。

専門的なことは学んでいないし、まだ和菓子の世界のことをほとんど知らない。そんな不安を持ちながらも、それでもワクワクする気持ちを抑え切れず、『きっとこっちの世界だ』という予感を信じて、一歩を踏み出す勇気。

田代さんの決意には、弱さと強さが入り混じっていて、ぼくはそこに無性に心を打たれた。

 

今あるわたしは、「6201」から生まれた。周りの人、環境によって生み出していただいた姿を、これからは自分の力でも作り、そして巣立っていかなければならないとも思う。その巣立った姿、変化した姿をこれからも披露できるように、作品を作り続けていく。

これからどのように変化していくのか。ただただ思うのは、和菓子の世界のような刺激的でおもしろい世界で生き続けたい。

-インタビュー

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