数年前、パジャマを着た女の子たちがファッションショーを行い、SNS上の話題をさらっていた。
「パジャコレ」と名付けられたそのイベントを考案したのは、当時青山学院大学に在学していた泉愛(いずみ・あい)さんだった。
お嬢様かと思いきや、泥臭く行動し、大手企業の協賛をつけ、やりたいことを次々と実現していく姿に、何かに挑戦することから遠ざかっていたぼくは、大きな刺激を受けた。
先日、その泉さんと3年ぶりに再会した。
社会人になってから会うのは初めてで、マイペースで穏やかな性格は相変わらずだったけど、なんとなく、たくましい顔つきに変わっていた。色々な経験をしたのだろうな、と思った。
新卒で入社した大手企業を退職してからは、中小企業のブランディングをする会社で働きながら、大手化粧品会社の学生向けプロモーション企画やWebメディア運営のサポート、イベント司会など幅広く活動をしていた。
そしてこの2月までの約一年間は、フィジーに移住していた。
「物価が安く、治安も良いフィジーは、世界幸福度指数でナンバーワンの国。そして発展途上国なのにみんな英語を話します。日本人の移住先として東南アジアも人気ですが、言葉が英語である分、疎外感もありません」
人懐っこいフィジー人たちは、生きることを本当に楽しんでいるという。
「フィジーの人たちは、いつも笑顔で、知らない人でもフレンドリーに話しかけてくれて、自分と他人の境目がほとんどありません。絶対的な幸福が感じられた場所で、私にとっては天国のようなところです」
今年2月に帰国し、現在は日本国際化推進協会で働いている。仕事はまだ始まったばかりだが、フィジーで培った英語力やコミュニケーション能力を生かしながら、外国人留学生の日本での活動サポートや、親日コミュニティの活性化、日本人を海外に送り出す後押しなどをしていく予定だ。
それから、すごくいいなと思ったのは、泉さんがこの2年間、スマホを持つのをやめた、ということだ。今はガラケーと、iPadを併用して過ごしている。
「スマホを持っていると、メールがきてもすぐに返信しなきゃと思ったり、見てばかりになってしまうんです。電車の中でも見てしまいますし」
「スマホを持たない生活にしてみて、何が変わった?」
「地図をよく見るようになりました」
「地図?」
「家を出る前に、駅から目的の場所までの行き方をしっかり調べるようになりました。スマホで道を調べながら行く、ということができないので」
言われてみれば、確かにそうだった。待ち合わせ場所が初めてのお店だと、無意識にスマホを頼りにしてしまっていた。でもそれは、スマホがなくなったときの自分の脆さを示しているような気がした。
「だから、頭に地図を入れる習慣がつきましたし、自分の感性を使って新しいものを見つけていく感覚が、とっても心地良いですよ」
あるいは、ぼくがおすすめの本を紹介すると、彼女はペーパーナプキンにメモを取り始めた。古いのに、なんだか新しい。
なるほど、この行為も、自分が無意識のうちにスマホでメモを取っていたことを思い出させてくれた。デジタル世代だけど、意識してアナログなものを取り入れるバランス感覚が、泉さんの魅力のひとつだと感じた。
また、雑談をするなかで驚いたのは、泉さんのおじいさんの話だった。
滋賀県の彦根に、「佐和山遊園」という、テレビ番組に取り上げられたこともある不思議なスポットがある。動画はこちら
佐和山は戦国武将・石田三成ゆかりの地で、ここに原寸大の金閣寺や五重塔のほか、城、観音、そして広大な庭園がある。これは石田三成の熱狂的なファンである泉さんのおじいさん、泉巌さんが40年間手作りで製作してきたものだそうだ。
「祖父は亡くなってしまったのですが、想いを引き継いでいきたいんです。ART・音楽・キャンプ・合宿所・外国人の方々に訪れていただく等、みなさんに自由に活用していただければ幸いです。この場所を有効活用するアイデアがあったら、ぜひ教えてください!」
昨年はDIY活動も兼ねて、床はり協会の方に頼み、床はりをしたり、出会った人たちに協力してもらいながら、少しずつリノベーションしている。
合宿スペースとして、撮影場所として、あるいは外国人向けのワークショップの場所として、いろいろな使い道があると思う。価値あるものが、使われずにいるのはもったいない。筆者としても、何か良いアイデアがあれば、教えていただきたい。