オーストリアのチロル州に、インスブルックというハプスブルク家ゆかりの古都がある。2011年から2013年の夏は、毎年この町に滞在し、様々な場所を訪問して過ごしていた。それはもう居心地の良い町で、1ヶ月間いても全然飽きないほどだ。
夜、小さな教会の横を通り過ぎると、中から賛美歌の練習が聴こえてきたりして、なんとも言えない感動があった。【インスブルックでのおすすめの過ごし方】という連載を始めたら、30回くらいは書ける自信があるが、今はやらない。
今日紹介したいのは、インスブルック滞在中に出会った、忘れられない風景。
インスブルック中央駅からローカル鉄道に乗って30分。イェンバッハという駅で降りると、隣のホームに、勢いよく煙を上げる蒸気機関車が待っていた。SLツィラータール鉄道だ。
「タール」とは、渓谷を意味する。SLツィラータール鉄道は1902年に開通した列車で、イェンバッハから南に延びるツィラータール(ツィラー渓谷)を進んでいく。1904年に造られた車両が、今も現役で一日2往復している。
時速はわずか25km。非常にゆっくりとしているが、車窓から広がるのは「これぞチロル!」というような、素晴らしい牧歌的な風景。屋根のない展望車は、とにかく最高だった! 爽やかな風を受け、たくさんの牛や、絵本に出てきそうな尖塔の教会が立つ小さな町々を眺めながら、列車は進んでいった。
1時間45分かけて到着したのは、ツィラータール最奥の町、マイヤーホーフェン。感動の旅は、まだ終わらない。
マイヤーホーフェンは、人口わずか3800人程度だが、それでもチロル地方では4番目に大きな町。
駅を出てメインストリートを歩いて行くと、ロープウェイ乗り場がある。ロープウェイに乗って着いた先は、標高約2200mのペンケン山。そこにはチロリアンアルプスが誇る絶景が待っていた。
黄色の花々と山々の光景は、見事としか言いようがない。これまでたくさんの山にロープウェイで登ったが、この景色に勝る風景はなかった。
ガイドブックにはほとんど紹介されていないが、忘れられない風景である。