そのお店でラーメンを食べるのを楽しみにしていたから、「ガラガラ」とドアを開けた矢先、「悪いな、今日はもう店閉めちゃったんだ」と言われたときはショックだった。
「そうでしたか」
扉を閉めかけたぼくを、おじさんは呼び止めた。
「お前さん、どこから来たんだ」
ぼくが真っ黒に焼けていたからか、自転車のグローブをつけていたからか、理由はわからないけど、旅をしていることはわかったらしい。
「神奈川です」
少し沈黙が続いて、「はぁ〜」というため息が微かに聞こえた。
「ちょっと待ってろ」
黙って待っていると、何かが入ったビニール袋を渡してくれた。
「これ、持ってけ。疲れたときは、カボスが効くだろ」
半分にカットされたカボスがたくさん入っていた。
自転車で去っていくぼくを、「気ぃつけてけよ〜」と手を振って見送ってくれた。
天草という地名を目にすると、いつもおじさんのことを思い出す。
今度はラーメンを食べたいな。