忘れられないエピソード

「笑わせるな!」先生が本気で怒ったのは、最後にぼくが笑うためだった

投稿日:2015年11月22日 更新日:

f:id:yota1029:20151122185111j:plain

六本木駅から地下鉄に乗ろうとしたとき、電車から降りてきた人に見覚えがありました。

「え!? 古谷先生ですか?」

「おぉ!洋太やないか!えらい大人になったな〜!」

5年ぶりの再会。ひと言ふた言話して別れましたが、帰りの電車で、当時の記憶が走馬灯のように蘇ってきました。

2010年6月。ヨーロッパ自転車旅の出発まで残り2ヶ月というとき、よりによってぼくはじん帯を怪我してしまいました。走ることもできず、焦りました。このままでは、西ヨーロッパ一周の旅なんて、遠い夢に終わってしまうかもしれない。

ぼくは兄の勧めで、草加の古谷施術院を訪ねました。古谷先生は、何人ものオリンピック選手や箱根駅伝のランナーたちに施術してきた先生で、陸上選手だったぼくの兄も大学時代からお世話になっていました。

「洋太、もう大学4年生か。随分大きくなったな〜。それで、今日はどうした?」

「先生、ぼくのじん帯を治してください!2ヶ月後から、西ヨーロッパを自転車で一周するんです!」

そう言った瞬間、穏やかだった先生の表情が一変しました。

「はあ? 自転車でヨーロッパ? じん帯の前にな、こんなトレーニング不足で。笑わせるな!一日100回懸垂できるか? お前の兄貴は毎日200回やってたぞ」

治療に行ったのに、本気で怒られて、随分ヘコみました。だけど、口だけと言われても仕方がなく、事実ぼくはトレーニングをほとんどしていませんでした。「なんとかなるだろう」という甘い考えでした。しかし、広いヨーロッパを自転車で旅するには、並々ならぬ体力が必要です。途中で体力に限界がきて、完走できずリタイアとなったら、本当に笑えません。

(悔しかったら、行動で言い返すしかない)

f:id:yota1029:20151122185310j:plain

ぼくは帰ってすぐ、100回の懸垂に挑戦しました(ぼくの部屋には鉄棒があります)。5回を20セットと考えれば、いけるだろうと思っていたら、その辛さは尋常ではありませんでした。50回を超えたあたりから、手に力が入らなくなってきて、1回ずつしか上がらなくなりました。フラフラの状態でなんとか100回をやり切ったものの、翌日はマメの痛みで、とてもじゃないけど、鉄棒を握れず。

f:id:yota1029:20151122185351j:plain

「今日は激痛で鉄棒を握ることすらできん笑」

と兄にメールしたところ、

「そんなもんだ!普通はそこでやめちまうんだよ。ぶらさがるのだけでもキツイから。でも、そこでやるかどうかが凡人が一流に勝てるかどうかの分かれ目なんだね。マメはそのうち血が出るけど、まあ大丈夫。死なないから(笑)」

マジか・・・と思いました。しかし、兄の言葉はもっともでした。

「もう限界」と思ったところが、本当のスタート地点。凡人と一流を分けるのは、そこで諦めるか、「いや、もうひと踏ん張りだ」と頑張るか、その差だと思いました。

そこで、自問自答しました。

「ここで諦めるのか? それとも?」

そして、ぼくは選択をしました。

翌週、再び古谷先生のもとを訪れました。また怒られるのではないかと、ビクビクしながら。

先生は、服を脱いだぼくの上半身を見て、無言でした。

そして施術を終えたとき、ぼくに封筒を渡してくれました。

「なんですか?」

封筒を開けると、中に2万円が入っていました。

「洋太、『企業協賛』は一口2万円だったよな」

「え!? なんで知ってるんですか」

「お前のブログ読んだよ。懸垂100回、頑張ったやないか。これは、『古谷施術院』からの協賛です」

「あ、ありがとうございます・・・涙」

「お前のじん帯は、出発までに俺が必ず治す」

そして企業協賛の方には、旗にメッセージを書いてもらうことにしていたので、古谷先生にも書いてもらいました。

f:id:yota1029:20151122185659j:plain

旅の途中、辛いことは何度もありました。体力の限界を感じたこともありました。それでも、ヨーロッパの大地を自転車で駆け抜け、ベルリンのブランデンブルク門に張られた小さなゴールテープをくぐったとき、

「笑顔で出発!笑顔でゴール!!」

という古谷先生との約束を、無事に果たすことができました。

本気で怒られたけど、すべては、最後の最後に、笑うためでした。

f:id:yota1029:20151122191244j:plain

「まさか、こんなところでお会いするなんて!」

「相変わらず世界を飛び回ってるか? はっはっは!」

f:id:yota1029:20151122190647j:plain

f:id:yota1029:20151122185636j:plain

-忘れられないエピソード

執筆者:


comment

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

関連記事

【お知らせ】書家・小杉卓さんより作品を寄贈していただきました。

この嬉しさをなんと表現して良いのか。感動的なお言葉と、素晴らしい作品をいただいてしまったので、この場を借りてご紹介したい。 数年前にとある書道イベントに参加した際、講師を務めていた書家の小杉卓さんとい …

「後悔のない人生を」なんて言うけれど

以前、友人がこんな話をしてくれた。 彼が静岡から横須賀までひとりで運転していたときのこと。途中立ち寄った足柄サービスエリアを出る際、ヒッチハイクしていた2人組を見つけた。 そのとき彼は、「乗せようかど …

「今の君は全然おもしろくない。会うのは時間の無駄」今朝、千代田線で泣いた話

「これからのインタビュー記事は、聞き手が表に出る時代」 そんな内容の記事のリンクを、今朝、家を出る頃に投稿したところ、すぐにコメントがつきました。 「お前、聞き手なんか。さぶ」 一瞬、「はい?」と思い …

【すべては一本の電話から始まった】ぼくがミャンマーへ行く理由(前編)

(後編はこちら) 3月16日から23日まで、ミャンマーへ行く。今回は、極めて特殊な旅。遊びではないが、自腹なので仕事とも少し違う。うまく言葉で表せないけど、不思議な使命感がある。 特別な体験をすること …

第2回 旅の報告会を開催しました!

日曜日は、広尾にある株式会社Rising Asiaさん(タビナカというサービスを運営しています)のオフィスをお借りして、第2回 旅の報告会を開催しました。 今回の参加者は20名ほど。友人が中心でしたが …