「本間様には及びもせぬが、せめてなりたや殿様に」
という歌が詠まれたほど、本間家は大金持ちだった。
しかし、ただの大金持ちではない。酒田の人々に愛された。それは、CSRなんていう言葉が当然なかった江戸時代に、防風対策の植林事業など、それを実践していたからである。
3代目、本間光丘の精神は「徳は得なり」であり、利益の4分の3を公益に資するように投資をしていった。そして自らは、豪華絢爛な生活ではなく、簡素な生活をしていた。
現在、本間美術館として使われているかつての邸宅も、失業者の救済事業として建てられたものだった。
邸宅の中で驚いたのは、ウグイスの影だった。この写真で、気付くだろうか。
装飾として彫られた梅の木の影が、壁に映っていた。しかし、その梅の木の上に、彫られていないはずのウグイスが止まっている。
これは偶然できた影ではなく、製作者の遊び心だというのだ。梅の花が重なって、ウグイスに見えるように、作られている。粋とは、こういうことを言うのだろう。
新庄駅から、山形新幹線で3時間半。夕方、東京駅に着いた。
遠くも感じるが、たった3時間半で非日常の雪国へ行けると思えば、近いかもしれない。
冬の国は、冬がいちばん美しい。東北の冬はとても良かった。
正直、観光はどうでもいい。言葉の訛り、生活感、珍しい機材や食材など、その土地を感じられるものにふれると、嬉しくなる。
今回でいえば、
みんなでパトカーの雪を落としていた警察官たち、融雪のための歩道のスプリンクラー、見たこともない除雪機械、地元のお祭り、色とりどりの漬け物、食文化、純朴な子どもたち、種類豊富なニット帽、人々の優しさ・・・。
ひとつひとつが、新鮮だった。
海外も国内も関係なく、旅は感性を刺戟する。
挑戦は続く。