コラム「“ニッポン”の発信基地」では、日本文化を発信するヒトやコトに焦点を当て、紹介していく。また、近年急激に伸びている「インバウンド・ビジネス」(訪日外国人観光客向けのビジネス)にも範囲を広げていきたい。
第1回は、大学の後輩でもある古賀百合絵さんの活動を紹介する。最近、彼女のSNSから、和をテーマにしたイベントを開催している投稿が、よく流れてきていた。しかも毎回本格的で、楽しそうな雰囲気が伝わってくる。
大学時代のことしか知らないぼくは、こんなに積極的で生き生きと活動している古賀さんを見るのが初めてだった。今もまだ大企業で働いているはずの彼女に、いったい何が起きたのだろうか?
先日の日曜日、気になって連絡をしてみると、「ちょうど今日の午後、『和福女子』のイベントがあるので、よかったらいらっしゃいませんか」と誘ってくれた。予定は空いていたし、絶好のタイミングだと思い、すぐさま行くことにした。奇跡は余白に舞い込む。
「和福女子の会は、いつもこのお店でやっているんです」
と古賀さんは言った。「日本酒と音楽の仕掛け人」梅澤豪さんがオーナーのお店、渋谷「Umebachee」だ。
準備に忙しそうだったので、隙間を縫うように質問していった。
「イベントは、今日で4回目になります。毎回テーマがあって、最初が『秋田野菜』、2回目が『醤油』、3回目が『和菓子』で、今回が『鰹節』です」
参加者の女性が会場に入ってくるたびに、「どうして男性が」という視線を感じて気まずい思いをしていた。
今回の講師は、鰹節伝道師の永松真依さん。つい先日の「TEDx Tokyo yz」ではスピーカーを務めていた。
実は偶然の出来事だったのだが、永松さんはぼくが以前からインタビューしたかった方で、まさか今日会えるとは思ってもいなかった。幸運が重なった。
永松さんの活動については、後日このコラムで詳しくご紹介したいと思っているので、今回はあえて簡略的な紹介にさせていただく。
永松真依 (鰹節伝道師)
2014年の夏、祖母の家に行った際、祖母が鰹節を削ってお味噌汁を作ってくれた。
その瞬間、味だけなく、その姿その全てに魅了され、削り器ひとつを携えて鰹節の生産地巡りの旅が始まった。
知れば知るほど鰹節の世界の奥深さにのめり込み、2015年11月に鰹節のセレクトショップ「かつお舎」を設立。自分らしさを追求しながらファッション、アート、音楽とともに鰹節の魅力を伝えるべく、日々奮闘中。
永松さんはまず、鰹節がどういう経緯で作られるのか、手書きのイラストとともに丁寧に解説してくれた。
一匹の鰹から4本の鰹節が取れる、鰹の漁場は太平洋側にある、職人は叩いた感覚で水分量がわかる、鰹節は「世界一固い食品」としてギネスに登録されている、フランスのブルターニュ地方に鰹節工場ができた、などなど、知らないことだらけだった。
(関連記事)フランスでかつお節生産へ 枕崎の業者ら、来夏稼働目標(朝日新聞)
そして無知な自分がいちばん驚いたのは、鰹節には、「カビつき」と「カビなし」のものがあるという事実だった。
鰹節のパッケージを見て、「花かつお」と書かれていたら、それは「カビなし」のもの。
そして、カビを付けることにより微妙に水分を抜きながら熟成させたものを「枯れ節」というそうだ。実際、枯れ節に触ってみると表面にカビがついていて、少しヌメッとした感触があった。
カビのない方は、パンチがあり、濃いダシが取れるそう。そしてカビつきの方は、繊細な味になるので、お吸い物などに適しているという。
実際にそれぞれの鰹節で取られた出汁を飲み比べてみたら、全然味が異なった。カビつきの方が甘みがあり、おいしく感じられた。
出汁を取るときは、水1リットルに対して鰹節30グラムという割合が、永松さんにとっての黄金比だそう。
ということで、削り方のレクチャーを受けたあと、みんなで30グラムの鰹節を削った。
削られた鰹節しか見たことがなかったので、人生で初めての削り体験である。慣れると楽しくなってきた。
日曜の午後から、渋谷で鰹節を削る女性たち。不思議な光景だった。ご馳走様でした。
ようやく作られた出汁は、味噌を入れなくても、それだけで本当においしかった。鰹節、すごい!
最後はご飯に鰹節をかけて、鰹ダシの味噌汁、古賀さんが作ってくれた唐揚げをみんなでいただいた。なんという幸せ。永松さんも、「鰹節はご飯にかけて食べるのがいちばんおいしい」と話していた。
最後は差し入れで持ってきた西河製菓店の桜餅を食べた。喜んでもらえてよかった。
会が終わり、ひと段落ついた古賀さんを捕まえた。
「今日はありがとう! カビつきとカビなしで、あんなに味が違うとは思わなかった。自分の舌でもハッキリわかって、あれがすごくおもしろかった」
「そうですよね! 『和福女子』のワークショップでは毎回、『実際に味わって感じてみる』という体験を入れるように意識しているんです。そういう記憶っていつまでも残りますからね」
「うん。すごく良いと思う。でも、どうして女子限定の会にしているの?」
「女性って、講師の話を聞いているときの熱量がすごいんですよ。バンバン質問をしたり。それに、講師の人もズラーッと女性が並んでいると良い意味でビックリしてくれるので(笑)」
「確かに熱量の高さはすごい感じた。一体感もあったし、会全体が熱くなるというか。でも、楽しいイベントだから、男子禁制なのは少し残念だけどね(笑)」
大学卒業後、仕事の関係で福岡に戻ったことが、すべての始まりだった。福岡の魚、日本酒のおいしさに感動し、食をテーマに勉強したり、イベントを開催して多くの人に届けていきたいと思ったのだという。
まだ小規模ながら、「和福女子」は大切にしたい“ニッポン”の発信基地である。会のクオリティは非常に高く、本当に良い会だった。
イベント情報は「和福女子」のFacebookページでチェックできるので、興味のある女性は参加してみてはいかがだろうか。ぼくが後ろに座っていても、「取材」だと思って許してほしい。