「サッカーでプロになることはできないけれど、ひたすらシュート練習をすれば、シュートだけなら世界一になれるかもしれない」とバカげたことを思って、大学1,2年のとき、ノートをつけたりビデオに撮りながら、無回転シュートについて研究していた時期があった。本田圭佑がW杯で無回転FKを決める2年前の話だ。
運動エネルギーを無駄なくボールに伝達させるためにはどうすればいいのか、軌道は低いほうが速さが増す、軸足は置くのではなく先まで走り抜けるイメージ、ボールの芯を捕らえる、腸腰筋を使い、上体を被せる、etc… 自分なりに研究を重ねた。
学校から帰ったら、夕方、近所の小学校へダッシュ。土日も。誰にも知られていないが、この孤独感が好きだった。
それで、シュート練習しているときにこの小学校で出逢ったのが、風生だった。
「プロの方ですか?どうやったらそんな速く蹴れるんですか?」
彼にぼくなりの、シュートについて気付いた点を伝えた。真剣に話を聞いてくれた彼は、後に日大藤沢高校に進学し、サッカーで全国3位に輝いた。
すごくバカらしい映像だと思う。ただ、うまく言葉で表せないが、ひとつのことを本気で極めようとした青春の時間だった。2本目は微妙だけど、1本目のキックは軌道が美しい。蹴った場所にボールが戻ってきているのは、余計な回転がかかっていないからだ。
この映像のシュートはまだ発展途上中で、コツを掴んでからはもっと重くて速いブレ球を蹴れるようになった。
大学3年生のときに仲間と参加した波崎のサッカー大会。決勝戦で直接フリーキックを得て、「洋太、蹴っていいよ」と言ってくれた友人に感謝したい。人生最高の無回転シュートが決勝点になり、長い努力が報われた。相手キーパーは一歩も動けず、努力の証である美しい軌道を眺めながら、ぼくは心の底から満足した。