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『キングダム』1~54巻を読んでの感想

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漫画『キングダム』、ここまで発売されている54巻までを、一週間くらいかけて読み終えました。本当に面白い漫画です。「手塚治虫文化賞大賞」を受賞したというのも納得。

この長大な作品を一気に読もうと思ったのには、3つのきっかけがあったことを思い出しました。

最初のきっかけは、去年の夏。ソフトバンクのオフィス内でチームの人たちがキングダムの話で盛り上がっていたことがあって、ぼくだけ読んでいないから全く話についていけなかったんです。その時に「キングダムは読んだ方がいい」とみんなに勧められて、いつかまとめて読みたいなと意識をするようになりました。これだけの優秀なビジネスマンたちを惹きつける魅力は何なのだろう?とも思いました。

その次のきっかけは、今年の春に映画版キングダムを観たこと。「原作を読んでいなくても楽しめますよ」と教えてもらい、近所の映画館で観ました。その時初めて、この作品が秦の始皇帝の時代を描いたものだと知りました。

それまで何も情報を入れていなくて、中国のどの時代の作品なのか、どの程度史実に忠実な作品なのかを全く知らずにいました。

また、映画版は漫画の1~5巻までの物語に過ぎないことも知り、この物語の壮大さを感じました。続きの物語を知りたい、とも。

最後のきっかけは、この春から中国の歴史物を読み続けていたことです。後漢を描いた『三国志』に始まり、始皇帝の死後~漢の樹立までを描いた『項羽と劉邦』、そして春秋戦国時代の様々を描いた『史記』。

この3つの作品に触れた後に『キングダム』を読むことになったのは幸運だったと、読み進めながら気付くことになりました。そして54巻の巻末に収録されている原作者である原泰久さんのインタビュー記事にあった下記の逸話で、それを確信することになります。

「ちょうどこの頃(27,28歳くらいの時)に、僕はどっぷり『史記』にハマり始めるんです。そもそもは仙人漫画を描くための資料だったんですね。古代中国の神仙思想を調べていると、それがちょうど春秋戦国時代のものとわかります。その時代についての知識と言えば、始皇帝と呂不章くらいのものだったので、本格的に勉強しようかなと思い、退職間際に本社で表彰された際にいただいた副賞の図書券で『史記』を購入したのが始まりです。

『史記』は司馬遷という歴史家が書いた書物なんですが、歴史書というより小説を読んでいる感じで、とにかく物語として面白いんですね。特に人物描写。当時の武将や文官の人生がそれはもうドラマチックに描かれていて飽きない。最初は仙人漫画の参考資料として読んでいたんですが、次第にファンタジーを交えなくても歴史大作としてこれをそのまま漫画にするのもアリなのではないかと思い始めていました。何せ春秋戦国時代なんて、ほとんど扱われてこなかった時代です。中国の歴史というと『三国志』が有名ですが、それよりも何百年も前にさらに面白い時代があることを見つけてしまった!という興奮がありました。

当時は歴史モノ以外にSFも描いていたのですが、担当さんにも相談したら「春秋戦国で行きましょう」と言ってもらえて、そのまま突き進むことになりました」

また、別のインタビュー記事ではこんな言葉もありました。

「──これまで一貫して歴史ものを描かれていますが、そもそもそれはどうしてなんでしょうか。

もともと小さい頃から大河ドラマとかが好きで、中学のときに「独眼竜政宗」を見たり、マンガ「赤龍王」を読んだり、司馬遼太郎作品にハマった世代で。自然に歴史に興味を持つようになったんですね。日本史も、幕末の話を読み切りで描いたりはしてたんですよ。ただみんなが知ってる時代だと、自由がきかない面もあって。

──制約が多い。

「これは史実と違う」とか言われちゃうとつらいなと。『三国志』と『項羽と劉邦』が大好きだったんですけど、その前の時代を描いたものがないなあと思っていたんです。まず『史記』にあたったときに、まっさらな状態で読んだので、自由にイメージできたのが本当に楽しかった。「赤壁の戦い」とか言われると、すでにイメージが固まっちゃってるじゃないですか。でも春秋戦国時代は行間が自分で自由に考えられたので、いいなあと思いました。でっかい戦場が描きたかったのもあって、ぴったりだなと」

ぼくがキングダムを読み始めて驚いたことは2つ。ひとつは、悪いイメージしかなかった秦の始皇帝(秦王・嬴政)が、主人公側の英雄として描かれていたこと。これには意外性がありました。

もうひとつは、呂不韋や昌平君が登場したあたりで、「あれ?キングダムって史記の話じゃん」と感じたことでした。だけど、構成が秀逸。ベースは史記なのだけど、史記は登場人物ごとに章立てがなされている一方、キングダムでは時系列で物語を進めて、そこに史記の登場人物たちをカッコよく織り交ぜてくる構成でした。その部分についても、原さんはこんなことを語っていました。

「漫画を描く上で、理系の考え方が役立っていることはかなりあります。例えば、『キングダム』 は『史記』という中国の歴史書を元に作られているのですが、『史記』の中身はちょっと複雑な構成になっています。国ごとの歴史が描かれている「本紀」と「世家」、人物ごとの逸話が記されている「列伝」など、まとめられ方が時系列ではないんです。

そこで僕はExcelを使って自分なりの年表にリライトし、さらにその年表から必要に応じてエピソードの取捨選択を繰り返し、物語へと落とし込んでいきました。これはまさに理系的な作業だと思います。『キングダム』はキャラクターも多く、史実に沿わなければならない歴史的な制約もあり、とにかく要素が膨大です。本当に考えて設計しないと読者もついて来れないし、描いている方も空中分解してしまう。今このお話が受け入れてもらえているのは、ギリギリこの”年表”からストーリーへの落とし込みがうまく行っているからではないかと思っています」

このインタビュー記事で、初めて原さんが元々は会社員で、しかもシステムエンジニアをしていたことを知りました。そしてその経験に、多くのビジネスマンを惹きつける秘訣があったことも。

「『キングダム」で、まだ年の若い信が飛信隊の中でたくさんの先輩にイジられたり可愛がられたりしながら成長していく姿は、まさに入社二年目のプログラマーだった未熟な僕が先輩方にしていただいた経験がベースになっています。あのとき感じたチームの一体感、先輩たちの優しさ、美味い酒も苦い酒も飲み交わした経験こそが、飛信隊の雰囲気を形作っているんです。ここ数年、ビジネス界の方々から『キングダム』を褒めていただける機会が増えているのですが、もしその理由を僕なりに探すのであれば、自分の社会人時代の経験を自信を持って落とし込んでいるからだと思います」

作者曰く、キングダムは80~100巻までは続くそうです。2006年から連載が始まって、今ようやく54巻なので、おそらくあと10年前後は続くでしょう。

はじめは、「最終巻が出たらまたまとめ買いして読もう」と思っていましたが、一度この作品の面白さを知ってしまうと、どうやら難しそう。ここから先は、最新刊が出るたびに読み進めることになりそうです。良い作品に出会えました。

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