カナダ東海岸のセントローレンス湾に浮かぶプリンス・エドワード島は、島自体がカナダのひとつの州になっている。カナダで最も面積が小さく、最も人口が少ない州だ。小さな島にもかかわらず、世界各地から観光客が訪れるのは、この島が童話『赤毛のアン』の舞台になったことが最大の理由だ。
しかし実際に訪れてみて、どうもこの島の魅力の本質は、アンではないように思えた。車窓から眺める島の風景が、あまりにも美しかったのだ。それはアンの舞台を訪ねるよりも、遥かに感動したことだった。
なだらかな赤土の丘陵地帯に、草原の緑、空の青がパッチワークのように広がっている。いたるところに見える古い灯台も味が出ている。そして初夏は、ルピナスという紫色の花が、島のあちこちに咲いている。まるで夢でも見ているかのような風景で、こんな世界が実際に存在するのか、と感じた。
何もかも忘れて海岸線をドライブでもしたら、きっと最高に違いない。『赤毛のアン』を知らなくても、十分訪ねる価値のある場所だった。だけどぼくは、訪れる前に読んでおいてよかった。
「あたし、もう好きでたまらないわ。プリンス・エドワード島は世界で一番きれいなところだっていつも聞いていたから」
美しい風景を眺めている間、アンの言葉が、何度も聞こえてきた。