海外に出ると、いたるところで「ニッポン」を目にする。Sushi、Ramen は世界共通語となり、日本ファンの人々とっては、そのようなものではもはや満足しない。海外で紹介されている日本のものは、年々深化しているように感じる。
2014年10月、ドイツの首都ベルリンに、本格的な日本茶カフェがオープンした。オーナーは日本人、ではなく、ドイツ人。いったいどうして、ベルリンで日本茶カフェを始めようと思ったのだろうか。ベルリン在住のフリーライターである兄・中村真人が取材した。
「どういう経緯で、このお店をオープンすることになったのでしょうか」
答えたのは、日本茶カフェ「Macha-Macha」のオーナー、エリックさん。
「2012年に、四国の八十八ヶ所霊場を巡ったときのことです。ふと緑茶を飲みたいと思ったのですが、カフェやスターバックスはあるのに、日本茶を飲める茶屋が見当たらない。その数日後、日本での緑茶の消費量が30年前から減り続けているという英字紙の記事を読みました。しかもシェアが増えているのはペットボトルなどのお茶ばかり。
さらにその数日後、今度は民宿で出会った、長年お茶の販売に携わっていたという方がこんなことをおっしゃいました。『緑茶に再びチャンスが訪れるとしたら、それは日本茶が海外で人気になり、逆輸入される形でだろうな……』と。いろいろな偶然と思いが後でひとつになり、『ベルリンで日本茶に絞ったカフェを作ろう!』と思ったんです」
内装を担当したのは、共同パートナーのデザイナー、カールステンさん。彼はエリックさんと日本を旅し、内装のアイデアを膨らませたそうだ。壁一面に吊るされたカーテンは、日本の和紙を使ったもの。そして店内の奥には、日本風の茶室まである。
エリックさんが丁寧に入れてくれた「かぶせ茶」のおいしさに、兄は驚いたという。日本人の兄が驚くということは、ドイツ人のお客さんはもっとびっくりするだろう。事実、本来の日本茶の持つ旨味にふれて、緑茶しか飲めなくなるというお客さんもいるのだとか。
3.5ユーロの煎茶から、いちばん高い玉露(10ユーロ)、そのほか抹茶ラテなど多種多様なメニューがある。濃厚な抹茶チーズケーキもお茶によく合うそう。
「利益を生み出すことを最優先させるのではなく、健康的でおいしいお茶を味わっていただくお客さんと、ここで働く従業員の双方が『喜び』や『意義』を感じられる経営を目指していきたい」
とエリックさんは話す。
それにしても、ぼくには四国八十八ヶ所の件が気になる。どうしてその旅をしようと思ったのだろうか。そしてやってみて、どのように感じたのだろうか。いつかベルリンを訪ねる機会があれば、直接伺ってみたいと思う。
日本人の知らないところで、日本の魅力を伝える外国人たちがいるということ。こうした本格的なお店が、今は世界中に生まれているし、これからも増えていくだろう。
海外に存在する「“ニッポン”の発信基地」の一例として取り上げたが、日本人として誇らしい反面、油断していると、そのうち外国人に日本文化を教えられる日が訪れそうで、少し危機感も抱いている。