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生産の放棄と創造

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今年3月に読んだ『1日3時間だけ働いておだやかに暮らすための思考法』という本の中で、「人生の意味を「生存」から「創造」に変えるひとつの方法は、ニートとして1~2年、名実ともに生産を放棄する期間を設けてみることだ」というやや突飛な話が出てきます。 

しかし、ちょうどその時期に同じようなことを考えていたため、そのアイデアを実行してみようという気持ちになりました。それでぼくは、6月くらいまでに手持ちの仕事の半分以上から離れて、しばらく大量に本を読んだり、好きなことを書いたりするだけの生活を送りたいと思っていました。 

そうは言っても、「6月以降は仕事を休むつもりです」と言っても「冗談でしょ?」という反応が多く、どうしたらうまく休めるものかと思っていたタイミングで、病気が判明しました。ショックを受けながらも心のどこかで「ちょっとラッキー」と不謹慎なことを思っていた自分がいました。

思わぬ形で休まざるを得ない状況になり、望んでいた状況が達成されたのが不思議で仕方なく、「半分は自分の無意識が引き寄せた病気なのかもしれない」と非現実的なことを思ったりしています。

ところで、今の世の中には即効性を求める記事や本で溢れていて、しかも恐ろしく速いスピードで流れています。

無意識に入ってくるネットの情報がとにかく多い。気になる見出しをクリックして、ピュッとスクロールして、なんとなく読んだような気になって、また別の記事をクリック。それを毎日繰り返す。

「きのう何読んだ?」

と自問自答しても、答えられません。本当に何を読んだっけ。その割に時間は費やしています。確かに良い記事もあった、ような気がするけど、ほとんどは時間の浪費なのでは、、、と思うに至りました。

また、ぼくは読み手であると同時に、書き手でもあります。一生懸命誰かのインタビュー記事を書いても、スポットライトが当たるのはせいぜい公開翌日まで。そもそもスポットライトが当たれば良い方。なぜなら一日に生まれる記事が多過ぎるから。「生み出す側」の人間なのに矛盾するようだけど、そんな状況に虚しさを覚えます。

ぼくは一度その「流れ」から外れたくなりました。「すぐには役に立たない」「即効性のない話」を読みたくなり、また書きたくなりました。

わかりやすいのが歴史をテーマにした小説でした。そこに立ち戻ったのは、これまでの自分が司馬遼太郎の作品から多くの影響を受けたことを思い出したからでした。

坂本龍馬が「江戸へ行ってくる」と言って、高知から歩き出す。大学生のぼくは「そうか、昔は歩いて江戸に行くしかなかったんだ」と当たり前の事実に衝撃を受けました。その衝撃は長い年月をかけて自分の中で醸成されていき、「昔の人に倣って、東海道五十三次を歩いてみよう」という形で昇華されました。『竜馬がゆく』を読んでから約10年後の出来事でした。

「そういう偶然」を設計することは簡単ではないのだけれど、点と点が線になるような豊かな体験を増やしたい。

もっと言えば、ユニークな線を描くために意図的に人とは異なる点をたくさん打ちたい。そんなことを思い、4月から読み始めたのが『三国志』でした。

それがきっかけで中国史にハマり、『項羽と劉邦』や『史記』などを読み進め(今は『キングダム』)、興味関心はヨーロッパ史へと拡大しつつあります。先日、塩野七生さんの『ローマ人の物語』全43巻を購入しました。

いずれの作品も、今すぐに価値を生み出す知識ではないかもしれません。けれど長い人生において、とても大きな価値をもたらす発展性のある知識だと思います。ピュッとスクロールして簡単に読めてしまうネットの記事では得られない重厚な学びがあります。

「生産の放棄と創造」というのが今年の主題になりそうです。時代に流されず、本質的なものを掴み取りたいと思います。

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