以前からInstagramでフォローしていた、ゆいさんというサロンモデルの方がいました。日々、この方の写真を見ているうちに、「よくわからないけど、只者じゃなさそうだな」と思うようになりました。正直、根拠はありません。名前を検索しても何も出てこない、本当に正体が不明な方でしたが、自称「人の目利き」としての勘です。
なんとなく引っかかるものがあり、直感に従って、今朝10時頃、連絡を取ってみました。
「突然ですが、インタビューさせていただけませんか?」
「インタビューですか? 私でよければ」
「さすがに今日は、空いてたりしませんよね?」
「空いてますよ」
そしてその3時間後には、二子玉川で会っていました。知らない人に連絡を取って、実際に会うまでの最短記録でした。ぼくもぼくですが、彼女も彼女です。しかし、本当の意味で彼女に驚かされるのはそれからで、予想を遥かに上回る衝撃が待ち受けていました。
「よく、サロンモデルの写真をアップしていますよね。あれは本職なんですか?」
「いえ、あれは休日の趣味ですね。平日はOLとして普通に働いていますよ」
「どんなお仕事を?」
「フォークリフトを運転しています」
「はい?」
「運転資格持っているんですよ。ほら、この動画見てください」
「・・・本当だ」
彼女がフォークリフトを運転して、歓声が上がっている動画を見せてくれました。
「大学時代は、何をしていたんですか?」
「大学2年生の冬から、ツインリンクもてぎのイメージガールを務めていました」
「へえ」
「でも、私辞めちゃったんです」
「イメージガールを?」
「いや、大学を」
「はい? 大学を辞めたんですか?なぜ?」
「なんか、単位を取るために授業を受けて、何のために大学に行く必要があるのかわからなくなっちゃって」
「多分、誰もがそう思っているけど、本当に辞めちゃう人には初めて会いました笑」
「それから、イメージガールを一年間やって、その後、会社に勤めました。一度転職して、今の仕事をしています」
「話は変わりますが、旅行は好きですか?」
「好きですよ。今年は積丹半島に行きました」
「しゃこたん半島?どこ?」
「北海道です。小樽の先の」
「初めて聞いた。観光地として、そんなに有名じゃないよね?なぜそんな場所へ?」
「ウニが食べたくなって、積丹半島のウニがおいしい、って聞いたんです」
「それだけ?」
「え?」
「ウニが食べたいから、積丹半島まで行っちゃったの?」
「そうです」
「でもすごい田舎だよね? 札幌から、レンタカーで?」
「いや、わたし免許持ってないんです」
「じゃあフォークリフトで?」
「違いますよ笑 鉄道とバスで」
「それでウニは食べられたの?」
「食べました!積丹半島の宿で、獲れたてのウニを、こんなに!」
「うわあ、うまそう。旅の目的は果たせたね」
「はい。でも、本当に何もないところで、何もすることがないから、22時頃には寝ちゃって、翌朝宿の近くを散歩してたんですね」
「うん」
「そしたら、漁師さんたちがいて、そこにフォークリフトがあったから、『私これ運転できますよ』って言ったんですよ」
「面白い!運転したんだ」
「しなかったです」
「してないのかよ!」
「でも仲良くなって、エビくれました笑」
「なんの話だよ笑」
「あ、これをお見せしようと思って」
「この手紙は何?」
「わたし、文通しているんです」
「誰と?」
「前に新幹線で、隣に座っていた小学生と」
「はい?」
「3年くらい前なんですけど、隣の席に小学生の女の子がいて、話してたんですね。それで、ミッキーの絵を描いて、横に『ミッキー』って書いたりしてたら、『かわいい字でいいな。私の字は男の子っぽいから嫌い』って言って」
「うん」
「私も、昔男の子っぽい字だったから、よくわかるんです。でも、友達のかわいい字を真似してたら、私でも書けるようになったから、『お姉ちゃんと文通したら、私の字を真似できるよ』って提案したんです。それから、文通が始まりました。もう何十通も続いています」
「普通に良い話」
「そういえば、二子玉川の藤屋ベーカリーって知っていますか?」
「雑誌とか載っているお店? 行ったことないけど」
「そうです!私学生の頃から通っていて、そこのお母さんと仲いいんですよ。中村さん、いろんな人にインタビューされてるから、そのお母さん紹介しますよ!」
不思議な方です。
彼女にとっては、ぼくは「今朝、突然連絡をしてきた変な人」であるハズなのに、その変な人に、当然のように次のインタビュー相手を紹介してくれるとは、いったいどういう感性なんだろう、と思いました。やはり只者ではなかった。。
そしてカフェを出て、本当に彼女に連れられ、藤屋ベーカリーという昭和55年創業のパン屋さんにやってきました。
お店に入った瞬間、奥にいたおばちゃんの熱烈な歓迎。
「まあ〜!よく来てくれたわね〜!ありがとう〜!」
おばちゃんが、ぼくに熱く語り始めました。
「この子はね〜、もう7年くらい前からお店に来てくれて。本当に良い子でね〜、もう・・・素晴しい子なの!」
熱心に話すおばちゃんを見ていて、なんだか温かいなあと感じました。
このお店のパンは今日の夕食になりましたが、本当においしかったです。
さらに別れ際、二子玉川の映画館の前に、スターウォーズのコスプレをしている人たちがいました。ぼくが面白がって写真を撮っていると、彼女がコスプレの人たちに近づいていき、
「ライトセーバー貸してください」
いきなりヨーダと戦い出した!意味がわからないけどすごい!
しかもかなり白熱の戦い!
「あー楽しかったー!」
「覚醒してたね」
なんだかまだ、整理がつきません。いったい、彼女は何者だったのだろう。サロンモデルの人だと思ったら、今まで会ったことのない類の変人でした。しかも「変人」と呼ばれることに本人は喜びさえ感じているし。
しかし、もちろん良い意味で言っています。好奇心の強さ、考え方、人の良さ、行動の真っ直ぐさなど、エピソードから垣間見られた彼女の人柄には、学べるところが本当にたくさんありました。おかげさまで世界が広がりました。
夕暮れが美しかったです。