「はい、これ。お客さんからいただいたのど飴」
「ありがとうございます。あ〜、イリオモテジマのなんですね」
包装用紙を見て言った彼女のひと言に、驚いてしまいました。
「オワナさん、『西表島』っていう漢字が読めるの?」
「はい」
ルーマニア人、恐るべし。現地ガイドのオワナ・パバロイユさんは、まだ27歳ですが、非常に優秀な方です。
「オワナさんが、日本に興味を持ったきっかけは何だったんですか?」
「文学ですね。日本の小説はルーマニア語にも訳されていて、高校生の頃、よく読んでいました」
「たとえば、どんな作品を?」
ぼくは、村上春樹とかかなと思いました。
「たとえば、森鴎外、谷崎潤一郎、川端康成、夏目漱石などですね」
「え・・・。読んでて、面白いと思うの?」
「面白いですよ。小説に出てくる情景にすごく興味を持って、日本に行ってみたいと思いました」
「司馬遼太郎も知ってる?」
「はい、『燃えよ剣』とか、あと『坂の上の雲』も読みました」
「全巻? 相当あったでしょう」
「そうですね。でも読むのは、とてもゆっくりですよ」
ぼくだってゆっくりじゃないと読めないよ。
「日本語はどこで学んだんですか?」
「ブカレスト大学の日本語学科です。高校生の頃は理系だったんですけど、入試の3ヶ月前に、日本語学科に入りたいと思って、必死に勉強しました。試験で必要なフランス語は一から3ヶ月で勉強しなくちゃいけなくて、個人レッスンの先生にも『無理だ』と言われたけど、『責任は自分で取りますから』と言って、教えてもらいました。そしたら合格しました」
学生時代は一年間、奈良教育大学に留学。奈良の田舎の村が大好きだそうです。
「もう一度日本に住んでみたいと思いますか?」
「う〜ん、日本は大好きですが、今はあまり思わないです」
「どうして?」
「私は、社会主義時代のこと(悪い歴史)があったから、ルーマニアに対して、あまり誇りが持てなかったんです。それは私だけじゃなくて、同世代の多くが同じように感じていると思います。だからルーマニアでは、外国で就職するのが、成功と思われています。
でも、ルーマニアの本を多く書かれている日本人のみや こうせいさんとルーマニア北部を訪ねたとき、同じものを見ているのに、ルーマニア人と日本人では、受け取り方が全然異なることに気付きました。それでルーマニアのことに、以前より関心を持つようになりました。今はガイドの仕事を通して、ルーマニアのことをもっと勉強していきたいです」